研究概要 |
ビールの原料として不可欠なアサ科のホップ(Humulus lupulus L.)の雌花には、ルプリンと呼ばれる独特の組織がある。このルプリンにビールの苦味や香りに関る二次代謝産物が含まれている。ホップに含まれる苦味酸(humulone,lupulone)の化学構造式は1950年代には明らかとなっていたが、その生合成を司る酵素遺伝子は1999年にフロログシノール誘導体合成酵素遺伝子が単離された以降、10年以上生合成研究の進展がなかった。特に、芳香族のプレニル化を司る酵素遺伝子は全く明らかとなっていなかった。今回、約1万のルプリンのExpression Sequence Tag(EST)クローンの中から、植物由来の芳香族基質プレニル基転移酵素に保存される、アスパラギン酸リッチモチーフ、膜貫通αヘリックス、プラスチド移行シグナルの3つの特徴を持つHIPT-1を昆虫培養細胞に発現させて、機能解析を行った。その結果、HIPHがホップ内在性のフロログルシノール誘導体のphlorisovalerophenone(PIVP)に1つのジメチルアリル基を転移する機能を持ちことを明らかにした。さらに詳細な芳香族の基質特異性試験の結果、HIPT-1がフラボノイドのnaringenin chalconeをプレニル化しホップ内在性xanthohumolの生合成にも関与することを明らかにした。以上のように、今回の研究は、HIPT-1が苦味酸(humulone、lupulone)の生合成における最初のプレニル化反応を司る酵素であることを明らかにし、植物生化学分野の発展に寄与するものである。
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