研究概要 |
水は岩石の塑性変形を促進することが知られているが,岩石周囲に分布した水が岩石内部に導入されるとき,周囲の水の量や,岩石内部への導入過程で生じる含水量分布の不均質性,歪の不均質性などとの関係性については発達する組織も含めて不明な点が多い. そこで本研究では試料周囲に水を分布させ,その量をコントロールし,水が試料内部に導入される過程において,それが力学特性や微細組織の発達へ与える影響について実験的に評価した.~3即の粒径からなる灰長石多結晶体と5vo%のシリカリッチなメルトを含む試料について,試料周囲に任意の水の量を分布させて,封圧1GPa,温度900℃で剪断変形実験を行った. 力学強度は,試料周囲の水が0.5wt%のときのみ,顕著な強度の低下を示した.例えば10^<-4.5>/secの勇断歪速度のとき,差応力が50MPa以下で変形したことに対して,同じ勇断歪速度で0.1,0.3wt%の水を分布させたときは水を加えなかったドライの実験結果と同様に差応力は勢断歪が0.5で1000MPaまで上昇し,その後弱化した.そして剪断歪が1,5のとき差応力は800MPaとなった.回収試料も非常に割れが発達していることが確認され,脆性変形が卓越したことが分かる.一方,0.5wt%の水を加えた実験の回収試料は部分的に割れているところも見られたが,全体としては塑性変形が卓越していた.さらに歪マーカーが部分的に急激に傾いている領域も認められた.つまり,歪の局所化が起こったことが分かる.全ての実験回収試料について赤外分光法分析を実施したところ,水はH_20流体として保持されていることが分かった.また歪マーカーが示す塑性歪の不均質性も含水量分布と関連しており,例えば0.5wt%の水を加えた一つの実験回収試料では,バルクの剪断歪が2であることに対して,歪マーカーが示す剪断歪が5の領域では550ppmであった.一方,同試料内部でも割れが発達している領域は150ppm程度であった.このように,試料に加えた水と試料内部での含水量,その不均質分布と変形機構との関係を評価した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
試料周囲に分布した水の量と試料内部へ導入される水の量の関係性や,試料内部での不均質な含水量分布と変形の局所化との関係性について,力学データや組織の発達と合わせて,定量的な関係を構築する試みが進展している.当初の計画通り,おおむね順調に進展している.
|
今後の研究の推進方策 |
現在の実験に用いている試料は,灰長石多結晶体にシリカリッチなメルトが5vol%含まれる.一般にメルトは水を含みやすく,粘性も大きく低下させる.つまり,試料内への水の導入と変形過程の中で,水を含んだメルトが強度を弱化させている可能性もある,そこで,現在はメルトフリーな灰長石多結晶体を入手した.これまでは,勇断変形実験を行ってきたが,今後はまずメルトフリーな灰長石多結晶体を用いて,軸圧縮実験を行い,水の試料内部への拡散のみに伴う,水の拡散部での塑性歪の局所化や,含水量勾配に応じた歪の勾配などについて,発達する組織と共に評価する計画を立てている.
|