研究概要 |
ミツバチやアリなどの真社会性膜翅目昆虫において繁殖分業はワーカーの利他行動によって支えられている.最近の研究によってワーカーの利他行動は,ワーカーポリシングによって強制された行動であると考えられている.単女王性・女王一回交尾種である日本産トゲオオハリアリではワーカーポリシングの強度がコロニーサイズ依存的に変化する事が分かっている.具体的にはコロニーサイズが小さい時に比べて大きくなるとワーカーポリシング強度が弱くなるしかしながら,コロニーサイズが大きくなった時にコロニーの繁殖分業がどのようなメカニズムで維持されているのかは分かっていない. ネットワークはノード(頂点)とノードを結ぶリンク(枝)で構成されているが,重要なのはハブと呼ばれる多くのリンクを持つノードの存在である.例えば、生態系ネットワークで言うところのキーストーン種の存在である.少数のハブ以外の大多数のノードはごくわずかなノードとしか結びついていないような性質をスケールフリーと呼び,これがネットワークに頑健性をもたらす事が知られている.トゲオオハリアリでは,コロニーサイズが大きくなると小さいときに比べて順位行動の頻度が増加する事が知られている.順位行動とは自身の繁殖を独占するために他個体の繁殖を利己的に抑制する行動である.本種における順位はアルファと呼ばれるワーカーを頂点とし,その下にdominantと呼ばれる順位行動をしたりされたりするワーカー達,その下にsubordinateと呼ばれる順位行動をされるだけワーカー達,最後に順位行動には参加しないワーカー達で形成されている.本研究では順位行動によって形成されるネットワークが,繁殖分業の維持にどのように影響するのか議論するために,コロニーサイズと順位行動ネットワークの関係を調べた.さまざまサイズのコロニー(ワーカー数の異なるコロニー)を用意して全個体マーキングを施し順位行動の観察とネットワーク解析を行った.その結果,コロニーサイズが大きくなるにつれて大きな次数を持つ個体が増える事が分かった.この結果は,コロニーサイズの増加と共に他個体の繁殖を利己的に抑制するようなハブ個体が増える事が示唆するものである.
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