研究概要 |
前年に引き続き、生命を細胞抽出液から再構成するための手段を明らかにするため、細胞内成分に近い細胞抽出液の調製法を確立した。ここであげる細胞内成分に近い細胞抽出液とは、無添加で調製され、細胞並みの濃度を持つ細胞抽出液のことである。昨年までに調製に成功していた無添加細胞抽出液を、細胞内の高分子濃度へ近づけることを試みた。昨年までに、低圧下での常温蒸発現象を用いた濃縮により機能的に細胞抽出液が濃縮できることを示していた。そこで、この手法の一般化をするために、様々な化合物や生体高分子を濃縮した。結果、2-30%ほどのロスは見られるものの、様々な物質に対して応用可能であることが明らかとなった。特に、再構成された無細胞翻訳系であるPURE systemは希釈することにより活性を失うが、濃縮によって再活性化することに成功した。PURE systemは100種以上の化合物・生体高分子から成り立つ系であるため、本手法は生命の部分システムに対しても有効であることが示された。また、細胞抽出液の濃縮に関しても、細胞並みの高分子濃度である270mg/mlまで濃縮を達成した。 さらに、本年度は生命の部分システムによる生命システム全体の再構築にも挑戦した。生命の自己複製はDNA複製、転写、翻訳といったセントラルドグマの流れが繰り返されることにより成り立つ。PURE systemは転写と翻訳に必須の因子のみからなるが、DNA複製系をもたない。そこで大腸菌のDNA複製系をPURE systemで発現させた。まず、DnaA, DnaG, DnaC, DnaG, PolIII複合体をコードする13遺伝子からなる各酵素が機能的に発現できる条件を検討した。結果、従来の条件より低い27℃で機能的なタンパク質を効率的に合成できることが明らかとなった。これらの結果を合わせ、同時発現によりシステムとしてふるまうことを実証し、セントラルドグマのサイクルを試験管で再構築することに成功した。これらの結果から、生命システムの某本部分を試験管内で再現可能であることが示唆された。
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