本研究の目的である「物質からの細胞再構成」のための道筋理解に向けて、以下の2つの成果を上げた。 1. 試験管内でのセントラルドグマサイクルの再構築 生命の自己複製はDNA複製、転写、翻訳といったセントラルドグマの流れが繰り返されること(セントラルドグマサイクル)により成り立つが、この過程を試験管内で再現した。転写と翻訳に必須の因子のみからなるが、DNA複製系をもたないPURE systemを用い、大腸菌のDNA複製系を発現させた。昨年までに見出した、DNA複製に関与する13遺伝子を機能的に発現できる条件を活用し、本年度はこれら13の因子が共同的に働くことを確認した。結果、27℃ 1晩の発現を行った場合、同時に発現したタンパク質群も発現後に共同してDNA複製を行うことが示された。さらに、特殊な遺伝子回路を設計により、試験管内でセントラルドグマサイクルが回ることを実証した。 2. 細胞内と同等の成分を持つ人工脂質二重膜小胞の構築と解析 生命を細胞抽出液から再構成するための手段を明らかにするため、昨年度までに調製に成功した無添加細胞抽出液(AFCE)を、細胞同様に脂質二重膜小胞(リポソーム)に内包する手法を開発した。昨年度までに、リポソームの半透膜的性質を用いて、外部浸透圧と内部浸透圧の差により内部高分子の濃縮可能性を示していた。そこで本年度は、より定量的な解析と、単成分タンパク質であるBSAを内在させたリポソーム(BSAリポソーム)とAFCEリポソームの違いを解析した。BSAリポソームは理論と同様、最初に与える外部浸透圧と内部浸透圧の比により最終的なリポソーム内の高分子濃度が決定されたが、本手法でAFCEを濃縮した場合、生体高分子濃度300mg/mL近傍で濃縮が停止する現象が見られた。同時に、余剰膜はBSAリポソームと異なるチューブ状変形を提示することを見出した。これらの結果により、単成分であるBSAと多成分であるAFCEでは本質的に内部パラメーターが異なることを示した。
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