本研究では、T細胞受容体直下のシグナル伝達に不可欠な分子であるZAP70に一塩基変異を導入したノックインマウスを用い、自己免疫疾患発症機序の解明を目的とした。今年度は、これらノックインマウスのうち、特定病原微生物を除去したSPF環境下において、顕著な関節炎と腸炎を自然発症した376マウスの表現系や、自己免疫疾患の発症機序の研究を行った。また、これらの研究成果を複数の免疫学会で発表した。今年度の補助金は、主に上記の研究を遂行する為の試薬や解析ツール等の購入費、及び学会発表経費等に充てられた。 これまでに、ZAP70変異体マウスの報告は多数あるが、関節炎の発症例は当研究室から報告されたSKGマウスのみである。そこで、skg変異体ZAP70が原因となる関節炎発症機序を解明するために、変異体ZAP70のタンパク構造の解析を行った。これらの解析結果を基に作製された376マウスは、生後7-9週で全てのマウスが関節炎を自然発症し、高頻度に腸炎を発症した。また、376マウスからCD4T細胞をレシピエントマウスに移入すると、関節炎と腸炎が惹起されることから、これらの自己免疫疾患はCD4T細胞に依存していると考えられる。376マウスの関節炎惹起性CD4T細胞は、胸腺での発生過程で自己反応性T細胞の割合が非常に高く、またそれら自己反応性T細胞の活動を抑制する制御性T細胞が欠如している。また376マウスの制御性T細胞は、末梢で増加するが抑制能力が非常に弱い事が確認された。そこで、376マウスに野生型マウス由来の制御性T細胞を移入すると関節炎の発症や重度が軽減された。これらの結果から、skg変異以外のZAP70変異でも関節炎を含む自己免疫疾患を自然発症する事が明らかとなり、同時に376マウスは自己免疫疾患の研究に非常に有用性の高いモデルマウスであると考えられる。
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