我々の免疫系は、病原微生物から生体を防御するために、遺伝子を再構成し、多様な抗原受容体をつくりだす。これらの受容体を発現したT細胞は多種多様な病原微生物に効果的に対応するが、一方で正常自己組織に対する異常免疫応答として様々な自己免疫疾患の主因となっている。本研究では、T細胞受容体のシグナル伝達に不可欠なZAP70分子の変異により自己免疫疾患を自然発症する複数のマウスモデルを用い、自己免疫疾患発症機序の解明と免疫自己寛容の理解を目的とした。 ZAP70分子に変異を持つマウスのうち、ZACマウスは自己免疫性関節炎と腸炎を自然発症し、SKGマウスはマンナン投与など自然免疫の活性化により関節炎を発症するが、同様の変異を有する375マウスは自己免疫疾患を発症しない。これらZAP70分子変異体の生化学解析や分子動力学シミュレーションにより、ZAP70分子とT細胞受容体との結合親和性が一定のレベルに減弱すると関節炎の発症が誘導され、さらなる減弱では発症しない。また、この関節炎惹起性のレベルでは、胸腺でのT細胞の発生・分化に於いて、自己反応性の高いT細胞受容体を選択し、同時に自己免疫反応を抑制する制御性T細胞の選択が著しく低下している。さらに、関節炎を発症するマウスでは、これらのT細胞が高い増殖機能を示し、関節炎を発症しないマウスでは、増殖機能が欠如していることが明らかになった。これらの結果は、T細胞受容体シグナル減弱による自己免疫疾患発症機構について、自己反応性T細胞の選択、胸腺からの制御性T細胞の選択阻止、および末梢での増殖機能の必要性を示唆し、同時にこれらの条件を満たすT細胞受容体シグナルの減弱レベルが重要であると考えられる。
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