研究課題
半導体素子の微細化、低消費電力化および高性能化を目指して、半導体ナノワイヤと呼ばれる基板表面から垂直方向に成長する1次元的な半導体ナノ構造の作製が行われており、ナノワイヤの形状、結晶構造およびバンド構造などの物性を理論的に解析することが求められている。本研究では、実験によって形状および結晶構造解析が盛んに行われている、選択成長法によって作製されるInPナノワイヤを対象として、温度および圧力を考慮することができる第一原理計算を基本とする計算手法を用い、InPナノワイヤの形状および結晶構造の決定因子を明らかにすること、また、III-V族化合物半導体ナノワイヤにおける回転双晶および超格子構造などの様々な系のバンド構造をタイトバインディング法を用いて解析し、ナノワイヤの物性を系統的に評価することを目的とする。InPナノワイヤの成長面のみならず、来年度実施する予定であった側面の成長過程を理論的に解析することによって、InPナノワイヤの形状および結晶構造は、イオン性およびワイヤ径だけではなく、P原子の吸着に依存することがわかった。具体的には、P原子が吸着しやすい低温・高V/III比の条件下では側面方向にも成長が進行し、回転双晶が混入する。一方、P原子が吸着しづらい高温・低V/III比の条件下では、側面方向への成長は進行せず、ウルツ鉱構造が形成されることを見出し、温度および圧力を関数とした状態図を作成することによって形状および結晶構造を予測することを可能とした。さらに、III-V族化合物半導体ナノワイヤのバンド構造を解析するため、タイトバインディング法のプログラムを作成した。また、バルク状態におけるウルツ鉱および閃亜鉛鉱構造のバンド構造を計算し、バンドギャップなどを第一原理計算での結果と比較してタイトバインディング法の適用をチェックすることで来年度行う研究の準備が完了した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、本年度にナノワイヤの成長面の成長過程を、来年度に側面を含めたナノワイヤの成長過程を解析して、ナノワイヤの形状および結晶構造決定因子を明らかにする予定であったが、本年度のみで形状や結晶構造といったナノワイヤの形成に関する研究を終えることができた。
「11.現在までの達成度」で述べたように、ナノワイヤの形成に関する研究は完了したので、今後はナノワイヤの物性評価に焦点を当てる。現時点では当初の計画以上に研究が進展しているので、当初計画していたIII-V族化合物半導体ナノワイヤにおける回転双晶や超格子構造といった様々な系のバンド構造を解析することのみならず、さらにその系の電気伝導などの物性を系統的に明らかにする予定である。
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Japanese Journal of Applied Physics
巻: 50 ページ: 055001-1-055001-4
10.1143/JJAP.50.055001