研究課題
下顎頭の著明な吸収像を特徴とするPCR(Progressive Condylar Resorption)が、下顎骨前方移動術後の後戻りの主な原因と言われている。PCRの発症のメカニズムはいまだ不明であり、種々の文献から、下顎頭部にかかる力学的負荷の量と負荷に対する骨の許容力が関与していると推測された。そこで、下顎頭部に力学的負荷をかける実験系として、下顎骨延長ラットモデルを用い、下顎骨延長による負荷によって下顎頭のどの部位にどのような変化が起こるかを検討した。10週齢のWistar系雄性ラット30匹を用い、実験群を延長終了後1日目と1週目、3週目の3群にわけ、マイクロCT撮影を行い、パラフィン切片にてHE染色、酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ(TRAP)染色、アルカリフォスファターゼ(ALP)染色、AZAN染色を行い、骨切りを行わなかった同時期の対照群15匹と比較検討した。マイクロCTでは、下顎骨前方部において著明な骨吸収所見を認めた。組織学的検索では、下顎頭中央部と前方部で異なる変化が認められた。下顎頭中央部においては、力学的負荷に対する初期の反応として一時的に肥大化軟骨細胞層の消失が認められたが、その後軟骨細胞層の厚みの増加と、軟骨細胞層直下における活発な骨添加が認め、リモデリングの所見を示した。一方、下顎頭前方部においては軟骨細胞層の消失に続いて著明な骨吸収と線維化が進行していた。このことより、力学的負荷の量と負荷に対する許容力が下顎頭の部位によって異なり、本研究に用いた下顎骨延長動物モデルでは、下顎頭前方部において力学的負荷が軟骨の適応力と骨の許容力を超えていることが示唆された。また、下顎頭の軟骨細胞層および軟骨化骨細胞層が力学的負荷に対して高い反応性を示し、リモデリングによる機転かあるいは破壊的組織変化かを決定するのに重要であることが示唆された。今回の下顎頭に認められた変化が不可逆的な変化に進行するか否かについては、今後、より長期の観察が必要であると考えられた。
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Biomedical Research
巻: 34(印刷中)
日本歯科医学会誌
巻: 31 ページ: 34-38