研究概要 |
地球内部に存在するCO2は,地殻内マグマシステムを経て火山から大気へ放出される.このとき,マグマシステムでは大規模なCO2の輸送現象が起きていると考えられているが,そのメカニズムは解明されていない.本研究課題では,二次イオン質量分析計(SIMS)を用いて火山ガラスのCO2濃度および炭素同位体組成の微小領域分析を行い,CO2-δ13Cシステマティクスを用いることで,深部マグマにおけるCO2輸送現象の実態を解明することを目指している. 本年度は,SIMS分析に必要な標準物質(CO2濃度-δ13C値が既知のガラス)の合成実験を行った.またCO2-δ13Cシステマティクスの理論構築にも着手した.標準物質の合成は,ピストンシリンダ型高温高圧発生装置を用いて1200℃,5~12kbarの条件で玄武岩質メルトにCO2を溶解させることで行った。急冷回収した試料は,一部をSIMS用に残し,大半を真空ライン内部で加熱することでCO2を気体として抽出し,その物質量から試料中のCO2絶対濃度を決定した.一部の試料では,気体質量分析計を用いて炭素同位体組成を測定した.以上により1600~8000ppmのCO2濃度を持つ玄武岩質ガラスを7試料,炭素同位体組成がδ13C=-28,-26,+5‰と決定されたガラスを3試料得ることに成功した. CO2-δ13Cシステマティクスの理論は,単純な脱ガス過程については既にモデルがあったが,マグマの中を化学・同位体交換を行いながらガスが移流する過程についてはモデル化されていなかった.そこで,これを反応輸送過程として定式化し,計算機実験を行った結果,H20-CO2の化学交換に比べ,同位体交換は短時間で完了し最終的な一定値になることが示された.このことから,CO2-δ13Cシステマティクスは,CO2輸送現象奪単純な脱ガスと明確に区別する有効な方法であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度予定していた,CO2ガスとケイ酸塩メルトの間の炭素同位体分別係数の測定実験を十分に行えなかった.その理由としては,まず第一に,申請書の段階から予定していた東北大学理学部中村研での実験開始時期が大震災の影響により遅れたことが挙げられる.震災により中村研の実験室は壊滅し,復旧に時間がかかった.特に,本研究課題で使用予定だった気体質量分析計が半壊し,修理されて再び使用可能になったのは2012年2月中旬に入ってからであった.これにより,同位体分析の手法確立および実際の分析が遅れた.また,もうひとつの理由として,ピストンシリンダによる高圧実験が技術的に難航し,実験手法の改良に時間がかかった点も挙げられる.
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今後の研究の推進方策 |
来年度は,まず,本年度に十分には行えなかった,CO2ガス-メルト間の炭素同位体分別係数の測定実験を完成させたいと考えている.修理された気体質量分析計は,現在は正常動作している.また,ピストンシリンダ実験は,手法に工夫が凝らされたことにより,すでに成功の見通しがついている.以上により,来年度に持ち越して研究を継続すれば,確実にデータを得,論文で報告できるものと考えられる. その後は当初の計画通り,二次イオン質量分析計の検量線を確立作業を行う。検量線が確立したら,実際に未知試料の微小領域分析を行いたい.未知試料としては,天然試料のほかに,CO2拡散実験の試料を準備している.この試料は,拡散に伴い,炭素同位体比が如何に変化するかを定量化するための実験試料であり,CO2-13Cシステマティクスの性質を非平衡な条件まで拡張して理解する上で重要と考えている.
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