研究課題/領域番号 |
11J03881
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
辻 雄太 九州大学, 先導物質化学研究所, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 分子ダイオード / 電荷移動錯体 / キノン / キンヒドロン / π-π相互作用 / 非平衡グリーン関数法 / 分子伝導 / 単一分子デバイス |
研究概要 |
πスタック系の電気伝導物性はDNAや有機伝導体などの系において幅広く調べられている。最近では単一分子レベルでのπスタック系の電気伝導度計測が可能となっている。単一分子レベルでの電気伝導物性を明らかにすることは、単一分子デバイスの実現のために非常に重要である。これまでに有機エレクトロニクスの分野において、電荷移動錯体や多環芳香族炭化水素などのπスタック系の電気伝導物性が数多く調べられている。特に、電荷移動錯体における電気伝導物性に関しては、分子性金属や有機超伝導体などの興味深い物性が報告されている。本研究では、生体内における電荷移動において重要な役割を果たしているキノン系に着目した。キンヒドロンは電子ドナーであるヒドロキノンと電子アクセプターであるベンゾキノンがπ-π相互作用によって結合した電荷移動錯体である。キンヒドロンの多層シクロファン型分子について、πスタック方向の電子輸送物性を非平衡Green関数法によって調べた。キンヒドロン分子のπスタック方向の伝導において整流特性が得られることが明らかとなった。整流機構はAviramとRatnerによって提案されていた従来の分子整流素子のものとは異なり、ドナーのHOMOとアクセプターのLUMOが相互作用してできる分子全体のHOMOとLUMOの電場に対する応答によって説明できることを見出した。さらにこの機構に基づき、層数を増やしていくと整流特性が向上することを明らかとした。四層のシクロファン型キンヒドロン分子において最大整流比12.5を得ており、二層のシクロファン型キンヒドロン分子のそれに対して約5倍も整流特性が向上することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
生体内での電子移動において重要な役割を果たしているキノンの伝導性について調べた。さらにそのデバイス化の可能性について有意義な提案を行った。単一分子レベルのπスタック系においてπスタックを拡張することによって整流特性が向上するということを初めて見出した。
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今後の研究の推進方策 |
ヒドロキノンはラシカル阻害剤の一種である。ヒドロキノンがラジカルを補足するとセミキノンを生成する。シクロファン型キンヒドロン分子においてセミキノンが発生した場合の電子輸送物性、ラジカル輸送物性および整流特性について検討を行う予定である。さらに、ラジカルはスピンを持っているため伝導電子のスピンとも相互作用することが期待される。したがって、スピンに依存した伝導物性についても研究を行う。
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