将来のデバイス化を見据えて、単分子計測の技術を駆使した分子の伝導度計測が盛んである。特に、フォトクロミック分子の伝導性は光異性化に伴って大きく変化するため、分子スイッチとしての応用が期待されている。Tamらは代表的なフォトクロミック分子であるジチエニルエテンについてその伝導度のON/OFF比をおよそ2桁程度であると報告している。一方、Roldanらはジチエニルエテンとは別のフォトクロミック分子であるジヒドロピレンについてその伝導度のON/OFF比をおよそ4桁程度であると報告している。両者とも電極と分子の接続にはピリジンをアンカーとして用いており、このON/OFF比の違いは主にπ骨格に起因するものと考えられる。そこで、我々は単純ヒュッケル法とグリーン関数法を組み合わせたアプローチによってこの系の伝導性について解析を行い、電極と分子の接点におけるフロンティア軌道の位相と振幅がジアリールエテンのスイッチ特性を支配していることを見出した。さらに、電極と分子を接続する位置(アンカーの置換位置)を変えることでON/OFF比を調整することが可能であることなども見出した。これは従来OFF状態であると考えられていた開環体がON状態として振る舞い、他方、従来ON状態であると考えられていた閉環体がOFF状態として振る舞う系の構築も可能であることを示唆しており、分子デバイスの設計の幅をさらに広げる有用な知見である。
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