研究概要 |
はじめに,個々の電流源の時間発展ダイナミクスを推定の上,これらを拘束条件として利用する電流源推定法の性能評価を行った.具体的には,電流源の時間発展ダイナミクスを拘束条件として用いた場合と用いなかった場合の推定精度の違いを明らかにすることと,推定結果に影響を与えるハイパーパラメータの適切な値の範囲を明らかにすることに取り組んだ.前者については,拘束条件を用いた場合に強度の小さな活動に対する推定精度がより向上することを実証した.後者については,シミュレーションデータを用いてハイパーパラメータ値の適切な範囲をグリッドサーチにより求め,この範囲に含まれる値が実データへの適用の際に生理学的知見と一致する結果を導くことを示した.これにより本推定法の有効に働く条件が明らかとなり,本研究課題で目標としている異なる電流源同士の時間依存関係ダイナミクスを拘束条件として利用する電流源推定法の開発へ向けて,重要な知見が得られた.なお,本研究成果は論文誌IEEE Transactions on Biomedical Engineeringに掲載されることが決定している. 次に,異なる電流源間の時間依存関係まで表現可能かつ小自由度のダイナミクスをモデリングし,高い次元をもつ電流源とモデルパラメータを効率よく推定するアルゴリズムを考案した.考案した推定法を計算機プログラムとして実装し,シミュレーションによる検証実験を行ったところ,活動電流源とそれら電流源同士の時間依存関係を表すパラメータを正しく推定できることが確認されたため,次年度において実データに適用する推定法を本手法に決定した. また,ダイナミクスモデルに拘束条件として組み込む予定である脳の解剖学的結合データに対して,前処理からモデルパラメータ計算,トラクトグラフィーまでの一連の解析を行い,解剖学的結合データの基本的な取り扱い方を習得することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書の平成23年度研究実施計画における目標:異なる電流源間の時間依存関係まで考慮したモデルの構築,効率的な推定アルゴリズムの考案,シミュレーションデータを用いた定量的な評価,実データに適用する推定法の決定,解剖学的結合データの取り扱い方法の習得,をいずれも達成し,加えて,本研究課題での開発手法の基礎となる推定法に対し行った性能評価についての研究成果が,国際論文誌にアクセプトされたため.
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今後の研究の推進方策 |
実データの性質を正しく捉えることができるように,これまでに構築,考案したモデル,アルゴリズムに対して細かく修正を加える.そして,上記の修正を加えたモデル,アルゴリズムについて,実データに対する有効性を検証していく.この際,脳の解剖学的結合データをモデルの拘束条件として組み込むために,各電流源間の解剖学的結合を計算するソフトウェア環境についても整備していく予定である.
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