研究概要 |
前年度までに考案した状態遷移行列の非対角成分のパラメータ推定法を改良し,拡散MRIデータから得られる脳の解剖学的結合を新たに拘束条件として用いた電流源推定法を開発した.本手法は,本研究課題で開発するとしてきた「異なる電流源同士の時間依存関係ダイナミクスを拘束条件として用いる電流源推定法」(以下,提案法)に対応するものである.なお,今年度5月~8月においてはマックスプランク認知神経科学研究所(独国)に滞在し,同研究所・クノシェ博士より拡散MRIデータ解析方法について助言を受けた. 提案する異なる電流源同士の時間依存関係ダイナミクスに基づく拘束条件によって,電流源推定の精度向上がみられるかどうかを数値実験により検証した.シミュレーションデータはニューラルマスモデルから構成される電流源の機能的ネットワークより生成し,状態遷移行列から推測される機能的結合パターンの正確性自体についても精度評価の対象とした.その結果,提案法において,時間拘束条件を用いない手法(従来法)では復元できなかった振幅小の成分が正しく推定され,かつ従来法で発生していた偽陽性の活動が抑制されることが明らかになった.機能的結合パターンについても,従来法から得られたパターンよりも正確な推定解が得られた. 実データ解析には,医学研究評議会(英国)・ヘンソン博士が一般に公開しているMEG,拡散MRIを含む顔視覚刺激課題中のデータセットを用いた.提案法を本データセットに適用したところ,顔視覚刺激選択的に反応する部位が含まれる領野(下後頭回,紡錘状回)に活動がみられ,さらに,物体認識時の視覚処理経路に対応する後頭葉から側頭葉にかけての機能的結合パターンが構成されるという生理学的に妥当な推定解を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の平成24年度研究実施計画における目標:実データ適用へ向けた考案手法の修正,手法検証用の実データ取得,実験タスクの理解・把握,推定解の生理学的妥当性の検証,解剖学的結合の計算ソフトウェア環境の整備,マックスプランク認知神経科学研究所滞在による解剖学的結合データ解析のノウハウ取得・関連研究情勢の把握,をいずれも達成したため.
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今後の研究の推進方策 |
得られた成果を国内・国外の関連する学会において発表する.また,これまでのシミュレーションデータ解析,実データ解析をさらに体系立てて行い,雑誌論文としての成果発表に備える.加えて,これまでに考案した手法を電流源推定ソフトウェアに組み込む.
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