昆虫のメスは性フェロモンによってオスを誘因するが、そのメスによるオスの誘因は交尾後に変化をすることがいくつかの種で明らかになっているが、その要因となる性フェロモンのレベルの変化は他のオスとメスの再交尾を抑制することで繁殖適応度を高めようとするオスと他のオスとの再交尾をすることで適応度を高めようとするメスの間の性選択という点で興味深い。本年度はアカヒゲホソミドリカスミカメのメスの交尾後のメスのフェロモンレベルの変化について、交尾処理メスと未交尾メスを比べることで検証した。フェロモンレベルはヘキサンでメスから直接抽出したものを保持量、空気中に放出したものを捕集装置で収集した物を放出量とし、それらをGC-MSを用いて定量した。その結果、交尾メスは未交尾メスに比べて交尾直後から4日にわたりフェロモン保持量が多かった。また、交尾直後と1日後ではフェロモン放出量において、交尾メスにその低下が見られたが、4日後においてに有意な差はみられなかった。以上のことから本種のメスは交尾後にフェロモン放出量が低下するがその効果はしばらくすると消失することが明らかになった。これらの結果は以前に検証した交尾後のメスの雄の誘因性の低下の結果と類似性を持つことから交尾後のオスの誘引性の変化はメスのフェロモン放出量の変化に起因するということが推測される。さらに、オスの内部生殖器の水抽出物をメスの腹部に打ち込んだ場合、コントロール群に比べてオスの誘因性が低下することが明らかになり、さらに産卵を促進する作用も確認された。これらの結果からオスの内部生殖器にはメスの産卵を促進させる成分とオスの誘因性を低下させる成分が存在することが推測される。
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