研究概要 |
本研究ではべん毛蛋白質輸送装置におけるATPase複合体(FliH/I/J)の動的構造と機能の解明を目的とする。 23年度は、輸送装置のプロトン透過活性制御に重要な役割を果たすと考えられるFliH-FliI複合体-輸送ゲート間相互作用様式を、遺伝学的手法及び、高い空間分解能を有するin vivo部位特異的光架橋法を用いて解析した。その結果以下のことを明らかにすることが出来た。 1.FliH-FliI複合体,FliR,FlhB及びFlhAの間の協同的な相互作用が蛋白質輸送を駆動している。 (Hara et al.,PLoS ONE,2011) 2.FliHのN末端が、輸送ゲート構成蛋白質のうちFlhAとのみ特異的に架橋すること、そしてこのFliH-FlhA間相互作用がFliIの輸送ゲートへの効果的なアンカリングに寄与し、その結果として効率的な蛋白質輸送を促進している。 これらの成果は、今まで不明であった、輸送ゲート構成蛋白質間の相互作用ネットワークの一端を明かし、さらにはダイナミックな離合集散を繰り返すATPase複合体(FliH-FliI)と輸送ゲート間の相互作用がFlhAの機能発現に重要な役割を果たしていることを見出したもので、べん毛蛋白質輸送装置の分子機構の解明に向けて重要な知見を与えたといえる。 また、23年度に取り組んだATPase複合体-輸送ゲート間相互作用は、べん毛蛋白質輸送装置と高い相同性がある赤痢菌やペスト菌などの病原菌が宿主に侵入する際に中心的な役割を果たす病原性因子分泌装置でも、必要不可欠な働きをしているため、病原菌による感染症の予防に向け、新たな標的機構を提示したことで、医療分野への貢献も期待できる。さらに共通の祖先から進化したと考えられているATP合成酵素と似た作動機構が輸送装置に存在することを示すことができ、両者の動作・設計原理解明に向け新たな知見を与えることが出来た。
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