研究概要 |
本年度は数値計算アルゴリズムについての研究を中心に行った.行列固有値計算アルゴリズムとしてよく用いられるdqds法の漸化式は,可積分系の観点から見ると非自励離散戸田格子の時間発展方程式と同一のものであり,具体的にHankel行列式で書ける初期値問題の解を与えることができる.そのために用いられる道具がモニックな有限直交多項式である.本研究では,モニックな有限R_<II>多項式に付随する非自励離散可積分系としてモニック型のR_<II>格子,およびその減算なしの漸化式を導出し,初期値問題の解について漸近解析を行うことで,これが一般化固有値を計算するアルゴリズムとなっていることを明らかにした.dqds法が三重対角行列を対象としていたのに対し,本研究で導出されたアルゴリズムは三重対角行列束を対象としたものとなっており,このクラスの問題に対しては,ある条件の下でパラメータを適切に選ぶことで従来法よりも高速・高精度に一般化固有値を計算できることが数値実験により確認された. 以上の結果について,本年度は国内4件,国外2件の学会発表を行い,その報告として九州大学応用力学研究所研究集会報告に和文論文1編が掲載,数理解析研究所講究録にも和文論文が1編が掲載される予定となっている.また,英文論文1編を投稿中であり,そのプレプリントは既にarXivにて公開済みとなっている. 加えて本年度は,本研究課題の背景にある直交関数系の理論と可積分系の関係について解説した和文論文を2名の共著者と執筆し,日本応用数理学会論文誌に投稿した.これについては,査読の結果採録が決定し,次号(23巻2号)に掲載される予定となっている.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は数値計算アルゴリズムについての研究が中心となり,箱玉系についての進展はあまり見られなかった.次年度は箱玉系についても研究を進めていきたいと考えている.また,今年度に構成された一般化固有値計算アルゴリズムについても,適用可能な問題のクラスが狭いという問題が残っており,この点についての改善も課題となっている.
|