microRNAは、自身と相補的な配列を持つ標的遺伝子の翻訳を負に制御することで、生体内の様々な生命現象を緻密に制御する。近年、癌や生活習慣病、感染症などヒトのさまざまな疾患とmiRNAとの関連性が指摘されており、医療応用の面でも関心が高まっている。miRNAは単独で機能するわけではなく、複数のタンパク質とRNA-induced silencing complex (RISC)と呼ばれる複合体を形成してはじめて機能することができる。これまでの研究で、私はヒトにおけるRISC形成過程の詳細を明らかにしてきた。その結果をもとに、small RNAの動作原理に基づいた高い効果が期待できる、論理的なsmall RNA二本鎖のデザイン法を確立することを目標とし、研究を行ってきた。 通常small RNA二本鎖は、熱力学的に不安定な5'末端をもつ鎖がガイド鎖となりRISCを形成し、もう片方の鎖はパッセンジャーと呼ばれRISCの形成過程中に分解される。しかし、このガイド鎖とパッセンジャー鎖の規定は厳密ではなく、時にはパッセンジャー鎖もRISCを形成し、ターゲット遺伝子ではない他の遺伝子に作用することが知られている(off-target効果)。Off-target効果はsmall RNAを用いた医薬品開発において大きな障壁となっている。 そうした中で2010年に報告された新たなmiRNA(miR-451)の生合成・RISC形成経路は、典型的なmiRNAの生合成過程とは異なり、最終的にガイド鎖のみがRISCを形成する。 そこで私はこのmiR-451の経路を利用すれば、"off-target効果"を回避し、従来のsiRNAよりも特異的に目的遺伝子だけに作用することの出来るsmall RNAのデザイン法を確立することが出来ると考え、この経路の全貌を明らかにすることを目的として研究を行った。
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