研究概要 |
研究は,高解像度光学センサ衛星とマイクロ波を用いる合成開口レーダー(SAR)の強みを組み合わせた,自然災害後早期に被災地域の抽出する手法を開発することを目的としている.具体的には,災害前の天候条件の良い日に撮影された光学画像とSAR画像,事前の数値標高データ(DEM),さらに災害後に緊急撮影されるSAR画像などを用いて,被災の範囲と程度を抽出する手法を提案し,事例により検証する.今年度は,常時に撮影した多時期のTerraSAR-X画像を用いた東京臨海部におえる都市構造の変化を把握した.その結果,新たに建設された手者や撤去された建物,羽田空港の埋め立てなどの進行を把握することができた. 2011年東北地方太平洋沖地震に対して,地震前後に撮影されたALOS/PALSAR画像とTerraSAR-X画像を用いて,東北沿岸部における津波の湛水域を抽出し,光学画像から目視で判読した浸水マップとの比較を行った.その結果,波長の短いX-bandはL-bandより水域の抽出に適することが確認できた.また,国土地理院が公開した5mと10mのDEMを用いて,津波の遡上域,湛水域と標高の関係を調べた.遡上域の標高は津波高に依存するものの,湛水域はほぼ標高2m以下のエリアに集中した.さらに,多時期のTerraSAR-X画像を用いた広範囲における地殻変動と津波による建物被害の検出も行った.東北地方太平洋沖地震が引き起こした地殻変動の変動距離が大きいため,X-bandによる干渉解析は不可能であった.TerraSAR-X画像を用いた地殻変動の検出手法を提案し,宮城県と岩手県を撮影した画像から変動量の検出に成功した.その結果を国土地理院が全国に設置したGPS電子基準点の記録と比較し,精度が0.5m以内であった.また,地震前後のSAR画像における後方散乱係数の変化から差分と相関係数を求め,1棟単位で津波浸水域内に被害を受けた建物を識別した.解像度の限界で小さい建物の識別が困難であったが,80%の被害が検出できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度で実施する予定の「常時のSAR画像における特徴の解明」と「災害地域のSAR画像を用いた解析手法の構築」が達成した.2008年と2009年に撮影した東京臨海部のSAR画像から都市構造の変化が抽出できた.そして,2011年東北地方太平洋沖地震前後のSAR画像から津波の湛水域の抽出,地殻変動の検出手法を構築し,被害の把握ができた.
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今後の研究の推進方策 |
今後では構築した被害検出の手法を改善し,ほかの地震へ適用する予定である.地殻変動の検出においては,上昇軌道と下降軌道の画像を組み合わせた3次元の地殻変動検出を試みる.また,ALOS/PALSARの干渉画像から得られた地殻変動量と比較し,手法の精度を検証する.建物被害の抽出においては,建物高さ情報を導入し,被害レベルの分類を行う予定である.
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