研究課題/領域番号 |
11J04365
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浜向 直 東京大学, 大学院・数理科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 粘性解 / 結晶成長現象 / 曲率流方程式 / 解の長時間挙動 / 自己相似解 / 等周不等式 |
研究概要 |
私の平成24年度の主な研究は、1:結晶の蒸発・凝固モデルを記述する曲率流方程式の解の漸近挙動、2:格子点上の等周不等式、の2つである。以下にその内容と成果を述べる。 1:蒸発と凝固により成長する結晶表面の形を記述する方程式が、1957年に材料科学者のMullinsにより導かれた。これは、指数部分に曲率を含む一般化された曲率流方程式に、半空間の境界上での接触角条件(ノイマン条件)が付いた問題として与えられる。Mullinsはこの方程式を近似・線形化することで解を与えたが、私は元の非線形問題そのものを考察した。まず粘性解の一意存在を示し、そして近似方程式の解との関係を明らかにした。適当なスケール変換の下、一般化された曲率流方程式の解が、通常のグラフに対する曲率流方程式の自己相似解に漸近的に収束することを証明した。この収束はより一般的な方程式に対しても得られている。また熱溝の深さ、つまり解の境界上の値についての評価も与えた。特に接触角が0に近づくとき、線形化問題の熱溝の深さが少なくとも3次のオーダーで元の深さを近似していることが分かった。本研究で、蒸発・凝固問題の解の長時間挙動が明らかになったと共に、Mullinsによる近似を適当な意味で正当化することができた。 2:n次元格子点の部分集合に対して定義された表面積と体積が満たす不等式、離散等周不等式を導き、等号を成立させる最適な図形は立方体に限ることを示した。証明は、古典等周不等式に対するCabreのアイデアに基づく。これはAleksandrov-Bakelman-Pucci(ABP)の最大値原理の証明手法を用いるもので、本研究では、ある差分ポワソン・ノイマン問題の可解性を示し、その解に対してCabreの手法を応用している。また格子点上の離散ABP最大値原理を用いて、楕円型差分方程式の解が満たすハルナック不等式の新しい証明を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は結晶の蒸発・凝固モデルを記述する方程式の研究を主な目的としていた。そして、典型例である曲率流方程式のみならず、より一般の2階放物型方程式に対する解の漸近挙動に関する成果を得ることができ、さらに従来の解法で適用されていた近似を適当な意味で正当化することに成功した。これら点において計画以上の成果が得られたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
結晶成長現象を記述する1階のハミルトン・ヤコビ方程式や2階の曲率流方程式といった非線形方程式に対して、解の適切性、漸近挙動などを中心に今後も研究していく予定である。今年度の研究成果に関連して、離散問題と連続問題との関係を明らかにすることが今後の課題の1つとして考えられる。例えば、格子点(メッシュ)を細かくした極限として連続問題の結果を復元できるかどうかは興味深い課題である。また、理論上は保証される一意解を数値計算で求めるときに発生する問題点について考え、それをクリアする理論の構築を目指す。
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