研究概要 |
今年度は,宮城県内において発生したノロウイルス(NoV)GII.4 2006b変異株による胃腸炎患者の糞便を12検体収集し,NoV遺伝子濃度を測定した。また,同時期に収集した県内下水処理場の流入下水試料に含まれるNoV GII濃度も定量し,下水処理場の処理水量(5,000m^3/日)および成人の糞便排出量(250g/日/人)を用いて処理区域内の感染者数を推定し,本研究で開発する推定手法の比較データを求めた。 糞便試料中のNoV濃度は,1.6×10^6~5.6×10^9(幾何平均値=1.1×10^8)copies/gであり,感染者から排出されるウイルス量には大きなばらつきがあった。下水試料中のNoV濃度は,3.8×10^4~5.4×10^6(幾何平均値=2.5×10^5)copies/Lだった。以上より,糞便および下水試料のウイルス濃度から推定される処理区域内のNoV GII感染者数は,0~6.9×10^4人/日であり,上記の幾何平均値を用いた推定値は46人/日だった。 また,本研究で開発する手法がNoV以外の水中病原ウイルスにも適用可能であるか検討するために,手足口病の主な原因ウイルスであるエンテロウイルス71(EV71),コクサッキーウイルスA16およびA10(CVA16,CVA10)を同時に検出するsemi-nested PCR法を開発し,西安の下水処理場において採水された21検体の流入下水試料に含まれる手足口病ウイルスの遺伝子配列解析を行った。その結果,患者からの検出報告が少ないCVA10が最も頻繁に検出され(陽性率=71%),遺伝子配列に基づく系統解析の結果,多様性も高かった。CVA16とEV71はそれぞれ19%と5%の試料で陽性だった。分子疫学的解析のソースとして家庭排水を含む下水を用いたことで,CVA10が不顕性感染により当該地域で流行している可能性が示唆された。
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