研究概要 |
今年度は, 前年度に決定したノロウイルス(GII.4型)カプシドタンパク質遺伝子の塩基配列について, 感染者内分散と感染者間分散の割合をAMOVA (analysis of molecular variance)により推定した。その結果, 全体の遺伝的分散への感染者内分散と感染者間分散の寄与度は, それぞれ48%と52%だった。したがって, ノロウイルスGII. 4は非常に強い突然変異によって感染者内の分散を作り出し, 同時に自然選択か遺伝的浮動の影響によって, 感染者間の分散も維持していることが示された。ノロウイルスの進化に関して, ウイルス学的に重要な知見が得られた。 また, ノロウイルス陽性試料を効率的にスクリーニングする方法として前年度に開発したリアルタイムRT-PCRアッセイについて, 今年度も継続して環境試料(下水および二枚貝)への適用性を評価した。開発したアッセイによってノロウイルス遺伝子陽性と判定されたすべての試料からは, GI, GH, GIVのいずれかまたは複数のノロウイルス株が検出された。開発したアッセイは, 糞便, 環境水, 二枚貝試料のスクリーニングに有用である。 さらに, A群ロタウイルスに対するワンステップリアルタイムRT-PCRを開発し, 二枚貝へのロタウイルスの蓄積性を調べた。A群ロタウイルス(HAL1166株およびSA11株)は, ノロウイルスと比較してカキおよびムール貝に蓄積しにくいことがわかった。また, ロタウイルスに汚染されたムール貝の加熱調理によるロタウイルスの生残性を調べたところ, 加熱時間が増加するにしたがって, 感染価は減少した。5分間の加熱調理で1.7log感染価が減少したが, ムール貝からは感染性を保持したロタウイルスが検出された。
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