前年度より解析を進めてきた鼻の形態形成について、Vnt5aの発現パターンと表現系との関係についてさらに解析を加えた。Vnt5aは鼻原基において遠位(先端)側で強く、近位側で弱い。このことはWnt5aが鼻の先端から根元にかけて濃度勾配を形成している可能性を示唆している。そこで本年度はオランダのグループとの共同研究で、Tet-onシステムによってE1O. 5から全身でWnt5aを発現させ、mRNAレベルでは発現の勾配を壊すことに成功した。そしてその個体における鼻中隔軟骨組織および細胞の形態を観察すると、Wnt5aノックアウトマウス同様に近位側での組織の収劍伸長がおこらず、太く短い形態であった。また軟骨細胞の形態もWnt5aノックアウト同様、極性が完全に失われ球状の形態をとっていた。この実験結果から、Wnt5aの発現自身が重要なのではなく、先端から根元にかけての化現の勾配が軟骨細胞の極性化に重要であることを示している。 また、Wnt5aと平面内細胞極性因子であるPrickle1のダブルヘテロマウスはマイルドな鼻低形成を示す。興味深いことに、これらのマウスの頭部をX線観察すると鼻中隔が湾曲している表現系がみられた。このような表現系はイヌにおいてパグやブルドックで頻繁に起こることが知られており、軟骨細胞の極性化が収劍伸長による鼻の伸長と鼻中隔構造の正常な形成に寄与している重要な知見が示唆された。 これまでの研究成果をまとめると、先端で強く発現するWnt5aの勾配を鼻の軟骨細胞が受け、平面内細胞極性因子依存的に細胞を極性化させ、鼻中隔軟骨組織を収鮫伸長させる。これによりマウスの長いマズルが形成されることを明らかにすることができた。また、平面内細胞極性経路は間葉系においてWntリガンドの勾配依存的に細胞を極性化させる機能があることを示すことができた。
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