研究概要 |
本年度は、損傷を受けた中枢神経系において軸索再生が困難な環境が構築されるメカニズムに焦点を当てた。マウス脳に損傷を施すと、損傷部には線維芽細胞とアストロサイトが集積することで、カサブタ様の瘢痕組織が形成された。瘢痕組織には、軸索伸長阻害因子として知られるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)が蓄積しており、これが軸索再生を阻害していると考えられた。そこで、線維芽細胞によるCSPG産生を促進するTGF-βに対する選択的阻害剤を損傷部に投与した。すると、線維芽細胞に由来するCSPGの発現が顕著に抑えられた。この時、神経軸索が損傷部を超えて再生した(Yoshioka et al.,J Neurosci Res,2011)。次に、アストロサイトがCSPGを産生するメカニズムを調べた。損傷を受けた脳では、グリア前駆細胞が増殖しており、これがアストロサイトに分化することで瘢痕組織を形成した。さらに、グリア前駆細胞は、大量のCSPGを産生しており、これが瘢痕組織に蓄積することを見出した(Yoshioka et al.,J Comp Neurol,2012)。以上の結果、神経再生が困難な理由として、瘢痕組織を構築する線維芽細胞とアストロサイトによって大量のCSPGが産生される事が示唆された。本年度は、TGF-β阻害剤による神経再生メカニズムの解明という研究目的を達成した。さらに、アストロサイトによる再生阻害環境の構築メカニズムの解明という新たな展開を見せた。来年度は、もう一つの研究課題である嗅球グリア細胞移植によって神経再生が起こりやすい環境が構築されるメカニズムについて解析する。さらに、新たな課題としてCSPGの再生阻害作用についても詳細な解析を実施する。
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