研究課題
我々はこれまでにRasの標的因子であるPI3Kのエンドゾーム移行が、エンドサイトーシスとインフルエンザを始めとする複数種のウイルス感染を制御することを報告してきた。そこで、Rasの標的因子のうちPI3Kのみが特異的にエンドゾームに移行する現象に着目したところ、PI3KのRas結合領域には他の標的因子には無い特徴的なアミノ酸配列(30アミノ酸)が存在した。この配列を欠損したPI3KのRas結合領域とRasの複合体は、増殖因子刺激依存的なエンドゾーム移行が見られずゴルジ装置に蓄積した。また、上記アミノ酸配列にエピトープタグもしくは蛍光蛋白質を融合して培養細胞に発現させたところ、デキストランの取込みとウイルス感染が抑制された。以上から、PI3Kに特徴的な配列に結合する因子が存在し、Ras-PI3K複合体の局在制御を介してエンドサイトーシスによる物質取り込みやウイルスの宿主細胞侵入に関与すると考えられる。次に、上記アミノ酸配列を10アミノ酸ずつに分割し、それぞれを培養細胞に発現させたところ、中央の10アミノ酸を発現させた場合にのみウイルス感染抑制効果を認めた。以上から、ウイルス感染を抑制する最小機能ペプチドが決定された。本ペプチドを用いることで、プロテオーム解析等によりRas-PI3K複合体の局在を制御する因子の同定が可能になると期待している。一方、インフルエンザウイルスによるRas活性化の分子メカニズムを探索した。ウイルス感染により宿主細胞内カルシウム濃度が上昇し、その下流で低分子量GTP結合タンパク質RhoAが活性化され、さらにその下流で再びカルシウム濃度が上昇するという循環したシグナルによって、Ras-PI3Kシグナルが活性化されることを突き止めた。将来的にはウイルス侵入において重要な鍵であるカルシウムシグナルを標的とした、ウイルス感染対策基盤への発展が期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
現在、Ras-PI3Kシグナルによるエンドサイトーシスとウイルス感染制御機構の解明をテーマとして研究を行なっているが、Ras-PI3Kのエンドゾームに移行に必要なPI3K特異的配列を同定し、この配列がエンドサイトーシスとウイルス感染に関わることを明らかとした。この配列に結合する因子を同定することで、Ras-PI3Kのエンドゾーム移行機構が解明され、ウイルス感染対策基盤への発展が期待される。また、ウイルスによるRas-PI3Kシグナル活性化メカニズムも解明し、EMBO Journalに投稿中である。本研究テーマは特別研究員申請の際には想定されておらず、期待以上に研究が進展したと評価している。
ヒト培養細胞でのTwo-hybridスクリーニング系を導入し、【9.研究実績の概要】で決定した最小機能ペプチドに結合する因子群を同定し、Ras-PI3K局在を制御する因子を選定する。カルシウム阻害薬によるウイルス感染抑制は現行治療薬よりも有効であり、インフルエンザウイルスによって惹起される宿主細胞のカルシウムシグナルが宿主細胞侵入において重要な鍵であることが示された。しかしながら、細胞内カルシウムの非特異的抑制は細胞毒性が強く、現状では感染対策への実用は困難である。そこで、インフルエンザウイルスがカルシウム上昇を引き起こすメカニズムの解明を引き続き行い、将来的な感染対策基盤の構築を目指す予定である。
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Neurobiology of Disease
巻: 43 ページ: 651-662
10.1016/j.nbd.2011.05.014
http://www.cellsignal-imaging.com/