地殻流体からの鉱物析出による開口き裂閉塞メカニズムと地殻内部イベントとの関連性を明らかにするため、本年度は以下のことを行った。 1、アモルファスシリカと曹長石の溶解実験を行い、天然の地殻流体中のSiとAlの濃度の上限を見積もった。化学平衡計算により、溶解実験の結果の妥当性を示した。 2、シリカ鉱物析出実験を行い、10mg/kg (H_2O)を超える高Al濃度の流体からは、シリカ鉱物に加えて曹長石や方沸石も析出することを明らかにした。 3、昨年度までの実験結果を用い、既往の析出反応速度式(石英の結晶成長に対応)に、温度および流体中のAl濃度の影響を考慮した項(核形成に対応)を加え、天然のシリカ鉱物析出反応を表す、新しい反応速度式を提案した。 4、葛根田地熱地域の深部掘削における観測結果(き裂密度、地震分布など)と、本研究の実験および計算結果を比較した。石英が溶解しやすい深度においては岩石中のき裂が多く、石英が析出しやすい深度では透水―不透水境界が存在するなど、シリカ鉱物の溶解析出反応と地下の特徴的な構造が相関していることを明らかにした。 5、3で求めた新しい反応速度式を用いて、深度ごとのシリカ鉱物溶解析出反応速度を求めたところ、葛根田の透水―不透水境界におけるシリカ鉱物析出速度は、他の深度に比べ非常に早いことが分かった。ここから、葛根田の透水―不透水墳界が、葛根田地熱地域の形成初期においてすでに形成、存在していた可能性を示唆した。
|