研究課題/領域番号 |
11J04665
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
坂田 綾香 東京工業大学, 大学院・総合理工学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 圧縮センシング / Dictionary Learning / ブラインド圧縮センシング / レプリカ法 |
研究概要 |
本年度は、Dictionary Learningと呼ばれる、圧縮センシングとブラインド圧縮センシングを繋ぐ問題についての研究を行った。Dictionary Learningとは、与えられたデータをスパースに表現する基底(dictiomly)を学習することである。Dictionaly Learningにおいては、学習に用いるテストデータの数が重要なパラメータになっている。テストデータの数が十分与えられることで、dictionalyを特定するために必要な条件式が得られれば、dictionaryは一意に決まることが予想される。Aharon et al.(2006)においては、必要なテストデータの数はデータサイズの指数関数的に増えるとされている。しかしこれは数学的に厳密に証明できる場合を扱ったものであり、精度の良い見積もりとは言い難く、また実際的な応用においてあまり意味を持つものではない。そこで、本年度の研究において、dictionalyの特定に必要なテストデータの数を、統計力学的な解析を用いて見積もった。 テストデータYを真のdictionary D^0と真のスパース表現X^0の積として与え、Yから真のD^0とX^0を特定できれば、dictionaryの学習が成功であるとした。テストデータの数はYおよびX^0の縦ベクトルの数Pとして定義される。レプリカ法を用いた統計力学的な解析を行った結果、dictionaly学習の成功/失敗は、P方向の相転移として理解できることが分かった。そして学習が成功するために必要なPの数は、データサイズと同じオーダーであることがわかった。この結果は先行研究と比較して、大きな改善であると言える。 Dictionary Leamingを統計力学の問題として取り扱ったのは本研究が初めてである。本研究は既存の研究と比較して、全く新しい方向性を与えるものであり、今後Dictional yLeamingの統計力学的研究は一つの大きな話題として注目されると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、データがスパースに記述されるための基底を構成する問題を統計力学的に解析し、先行研究よりも良い結果を導くことが出来た。本年度の研究結果は既に論文としてまとめ、Physical Review Lettersに投稿中である。プレプリントはarxiv: 1203.6178に掲載されている。また複数の学会、研究会において、本研究に関する講演を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果は、レプリカ対称性という仮定に基づいたものである。これは解析の便宜上導入される仮定であるが、物理的には相空間が数個のpure stateから構成されるという仮定に対応する。この仮定は正しい場合とそうでない場合があるので、注意が必要である。来年度はDictionaly Learningにおけるレプリカ対称性の破れを議論することが必要であると考える。レプリカ対称性の破れを考慮することにより、必要なテストデータの数Pの見積もりは、より正確な値になると考えられる。また、Dictionaly Learningの成功/失敗の相転移的描像も、より定量的に把握することが出来ると考える。
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