研究概要 |
エネルギー・セキュリティや気候変動問題は経済問題としての側面が強まっている.その結果,エネルギー資源・環境問題と経済の関わりについて正確に捉えることが必要となっている. 本研究では,長期的視野で経済動学と資源・環境問題の関係を分析できる理論的枠組の提示を目的としている.具体的な特徴は,エネルギー資源問題と環境問題を統一的に把握し,分析する点である.さらに,マクロ経済動学の手法を用いることによって,エネルギー資源や環境の政策的課題について,その「時間的優先順位」,「タイミング」を論じることができる点が挙げられる. 本研究の意義は次の3点にまとめられる.まず,新技術の導入に際しての消費者選好と資源・環境問題の両関係が明らかになる点.次に,資源問題・環境問題の両問題が同時に存在した場合の企業行動のあり方について,公共政策等を導くことができる点.最後に,本研究全体を通して,資源・環境問題と経済問題をより多角的に捉えることができる点である.以上のように,資源・環境問題両方の視座に立った経済分析は貴重であり,本研究は先駆的な研究になると考えられる.経済発展,資源問題,環境問題は密接に関連しており,経済活動のための技術政策,資源政策,環境政策が分立しているべきではない。したがって,本研究は,今後の経済理論・実証の深化に貢献するとともに,実社会の政策形成に資する基礎的原理を提供できることが期待される. 平成23年度は,消費者の習慣形成を考慮に入れた資源利用についての研究を行った.本研究の目的は,習慣形成モデルのひとつであるUzawa-Epstein型時間選好率の概念を用いて,枯渇性資源消費について理論的な分析を行うことである.これを通して,資源の代替財であるバックストップ技術への切替え時期や,資源消費と消費習慣の関係について考察を行うものである.具体的には,資源消費の意思決定問題に,時間選好率内生化を組み込んだモデルを構築し,分析を行った.分析の結果,次のような結果が得られた.(1)枯渇性資源の初期ストック量の増加は必ず代替財であるバックストップ技術への切替え時期を遅くする.(2)バックストップ技術の価格が上昇すると,その技術への乗り換えハードルが高くなり,必ず切替え時期が遅くなる.(3)異時点間の消費の代替が非弾力的な場合,「時間選好率係数」の上昇は近視眼的な消費習慣の増大を招き,その結果,切替え時期の早期化につながる.一方,異時点間の代替が弾力的な場合,「時間選好率係数」の上昇は切替え時期を遅らせることになる. 本研究では,枯渇性資源利用と習慣形成に関連して,内生的な時間選好率や割引率に焦点を当てた.これは単に純粋な経済理論としての問題だけでなく,気候変動問題における割引率の取り扱いという高度に政策的な問題にも深く関連しており,超長期の政策形成についても重要な示唆を与えるものと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,消費者のの習慣形成を考慮に入れた,枯渇性資源の最適利用問題(ホテリング・バックストップ問題)について研究を行った.枯渇性資源の利用は経済活動の根幹を成す為,本研究によって,消費の外部性を考慮した場合における,資源消費量の変化と代替財であるバックストップ技術への乗り換え時期との関係を明らかにできたことは意義深い.また,当初の予定通り,研究成果については,国内学会2件(ポスター発表,口頭発表),国際学会2件(口頭発表)で報告することができ,研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,本年度に行った研究をさらに進め,経済モデルの中の時間選好率と異時点間の代替の弾力性の役割について,より深く,考察したいと考えている.超長期時間軸でとらえられるべき気候変動問題や環境問題は,世代内と世代間の問題が議論の対象となることが多い.そうした中で,重要な要素となるのが,時間選好率や,異時点間の代替の弾力性である.こうしたことを理論的に分析することで,今後の気候変動問題等の政策決定に際する理論的ツールを提供できることが期待できる.
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