研究課題/領域番号 |
11J04689
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
昔農 英明 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 特別研究員(PD)
|
キーワード | 移民統合 / 自由と民主主義 / 労働市場政策 / 内国秩序管理政策 |
研究概要 |
本研究は、近年エスニック同質的な価値基準から自由と民主主義を統合の基準とする移民政策を打ち出すようになったドイツにおいて、どのような方針のもとに移民・難民政策が策定されているのか、そうした方針に基づく移民・難民政策が現場での移民・難民の保護にいかなる影響を及ぼしているのかを、現代世界を席巻しているネオ・リベラリズムのイデオロギーとそうしたイデオロギーに影響を受けつつも、独自の政治文化・制度を保持している当該国家の文脈に注目しつつ検討することを目的としている。 こうした研究目的のもと、平成24年度においては、まず、慶應義塾大学社会学研究科において学位審査を受けた博士学位論文をベースにした研究発表を学術研究会において行ったほか、博士学位論文の中身を理論的に発展させた論文を査読付きの学術雑誌に投稿し、掲載された。また、平成23年度においてドイツで行った学術調査をもとに、学会と研究会においてそれぞれ報告を行い、これにもとづいた研究論文を現在執筆中である。 上記研究活動と合わせて、2012年8月末から9月中旬にかけて、ドイツで文献調査と聞き取り調査を含む現地調査を行い、ドイツの移民・難民政策の変容とその現場の保護への影響を検討した。その検討の結果、以下の2つの点が明らかになった。第1に、近年の移民政策の変化の背景には、社会権を広範に保障する大陸型福祉国家の伝統とその統合能力の減退の問題、ならびにエスニック文化的な規範ではなく自由と民主主義を移民統合の柱に明確に置くようになった政治文化的な基盤が大きく影響している点が明らかになった。第2に、上記の政策変化の背景の影響と、EUの東方拡大に伴って策定された移民政策の影響により、地域レベルで移民・難民への排外主義が顕在化している点が明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、前記の研究目的・計画にもとづいて、ドイツにおいて1回現地調査を行い、文献調査と聞き取り調査を実施した。こうした現地調査にもとづいて、国内の学会、研究会において研究報告を3度行ったことに加えて、査読付きの研究論文を1本公刊するなどの研究成果を上げた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、研究1年目(平成23年度)および2年目(平成24年度)において行ってきた文献調査を継続的に実施し、移民統合政策における政策方針の内実(労働市場政策とセキュリティ政策の2つの側面)をより総合的に把握することを目指す。またこうした連邦や州レベルにおける政策方針が、自治体レベルにおける移民・難民の就労状況、福祉給付、教育へのアクセスにどのような影響を与えているのかをより詳細に明らかにするために、ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州を中心に、ドイツ・カリタスや福音主義ディアコニー会などの有力な福祉団体、移民団体を訪問し、聞き取り調査を2回行う予定である。
|