研究課題/領域番号 |
11J04752
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐々木 雄一 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 超対称性粒子 |
研究概要 |
申請者は標準理論を越えた新物理の探索を目的としている。本年度はスイス・ジュネーブにある欧州原子核研究機構(CERN)において、重心系エネルギー7TeVでのデータ取得を行っているLHCに記録されたデータの解析を行い、新物理の兆候を探索した。具体的には、衝突事象の中に一つの電子もしくはミュー粒子、加えて多数のジェットと大きな消失横方向運動量を持つ事象をターゲットにして、超対称性粒子が生成されたような兆候を探った。 データの取得は昨年度末まで順調に行われ、約4.7/fbもの積分ルミノシティを得ることが出来た。これに合わせて解析手法も大幅な更新を行い、発見感度の向上を目指した。 解析は基本的に、標準理論事象を考慮したシミュレーションから予想される分布形状や事象数を、実際に取得されたデータと比較することで行われる。もし両者の間に有意な差があれば、それが標準理論を越える新物理の発見となるわけだが、その為にもシミュレーションの高精度化・高信頼化は欠かせない。しかしLHCが作動しているエネルギースケールは前人未踏のものであり、この領域におけるシミュレーションは未だ十分な検証がなされたとは言えない。そこで申請者は、昨年度取得したデータを用いて、今まで試みられていたよりもさらに高いエネルギー領域でシミュレーションの検証を行い、解析へのフィードバックを行った。これにより超対称性粒子に対する発見能力は従来よりも一層の向上を遂げ、将来新粒子の兆候が見られた際にも高い信頼度で確認作業が行えるようになった。 解析の結果、昨年度のデータはシミュレーションによる予測と矛盾無く一致し、残念ながら新粒子の発見には至らなかった。そこでその結果をmSugra模型の枠内で解釈し、スクオーク質量1.2TeV、グルイーノ質量0.8TeVまでを棄却するという制限を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度LHCは当初の予定通り順調にデータを取得し、最終的に約4.7/fbもの積分ルミノシティを記録した。それに合わせて解析の方針も大幅に見直しを行い、より積極的な感度向上を目指した。データと予測値は一致し、残念ながら未知の超対称性粒子の発見には至らなかったが、それをパラメータへの制限として解釈し論文を執筆中である。データ取得・解析作業・論文執筆すべてに大きな遅れは認められないため、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度からすでLHCでのデータ取得が本格化し、解析作業は一日を争う状況になりつつある。本年度はさらにルミノシティが向上するため、より解析作業は長時間化することが予想ざれる。物理的な側面から述べれば、本年度LHCは重心系エネルギーを7TeVから8TeVに上げるため、高エネルギー極限での新物理探索はより興味深い領域を調べることになる。 そのため今後の研究は主に高エネルギー極限側を優先して行うことになり、低エネルギー極限側での探索はしばらく主体的な研究を行うことが出来ないと思われる。しかし先にも述べたように、高エネルギーでの探索は現在物理的に面白い局面に差し掛かっている。よって標準理論を越える新物理の探索という申請者の研究目的に適った加重変更だと考えている。
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