研究課題
加齢指標タンパク質30(SMP30)は、加齢に伴い肝臓や腎臓で減少する。SMP30は、ビタミンC生合成に必須のグルコノラクトナーゼである。SMP30遺伝子破壊(ノックアウト)マウス(SMP30-KOマウス)は、ヒトと同様にビタミンCを生合成できない。SMP30-KOマウスはビタミンCの長期的な不足で寿命が短縮する。ヒトでは、血中ビタミンCが加齢で減少する。老化とビタミンCの不足には、密接な関係が窺える。しかしながら、生体内ビタミンCの加齢依存的な変動機構は不明である。また、細胞外からのビタミンCは、特異的輸送体であるSodium-dependent vitamin C transporter(SVCT)1,2により細胞内へ取り込まれる。本年度は、SVCT1,2の加齢変化を調べた。結果、老齢マウスの肝臓ではSVCT2mRNAの発現が増加することを明らかにした。一方、ビタミンCの排出輸送体は未だ不明である。小腸から吸収されたビタミンCはまず肝臓へと運ばれたのち、他の臓器へと分配されることから、肝臓にはビタミンC排出機構が存在すると考えられる.ビタミンC排出輸送体を探索するため、SMP30-KOマウス由来の不死化肝実質細胞株の樹立を行い、Journal of biochemistryに成果を報告した。樹立細胞株はビタミンC合成能を欠損しており、ビタミンCの動態解析に非常に有用である。本細胞株により、ビタミンC排出を陰イオンチャネル阻害剤、5-Nitro-2-(3-phenyl propyl amino)benzoic acidが阻害する可能性も示唆された。更に、ビタミンCはカテコールアミン(ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)生合成酵素、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)及びドーパミン-β-ヒドロキシラーゼ(DBH)の活性化に補因子として必要とされる。ビタミンCの加齢に伴う減少によってカテコールアミンも減少する可能性を考え、本研究では生体でのビタミンC欠乏がカテコールアミン生合成に及ぼす影響を調べた。結果、ビタミンCは生体内で確かにDBH活性化に補因子として働き、THの活性化には必須ではない可能性も示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度はSVCT1,2の野生型マウスにおけるmRNAの発現の加齢変化を解析し、マウス副腎のSVCT2および肝臓のSVCT1 mRNA発現に変化がない一方で、肝臓SVCT2の発現は24ヶ月齢で増加することを明らかにしている。また、ビタミンCを排出する輸送体を探索するため、ビタミンCを合成できないSMP30ノックアウトマウス由来の不死化肝実質細胞株の樹立に成功し、Journal of biochemistryに報告することができた。計画は概ね順調に進展しているものと考える。
老化によりビタミンCの取り込みが減少する可能性を検討するため、現在、肝臓および副腎以外の臓器におけるSVCT1,2mRNAの加齢変化についても定量的PCRによる解析を進めている。老化によりビタミンCの排出が増加する2つの可能性を検討するため、樹立した細胞株において明らかになった陰イオン阻害剤におけるビタミンCの排出の阻害について、引き続き樹立細胞株およびHPLCを用いた薬剤作用条件の検討を行っていく。また同時に、他の薬剤による阻害実験も行い、作用する輸送体の絞り込みを行う予定である。
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Journal of biochemistry
巻: 150 ページ: 671-678
10.1093/jb/mvr109
Biological and Pharmaceutical Bulletin
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http://www.aging-regulation.jp/index.php