研究課題
本研究は原因遺伝子が未だ特定に至っていないブラダー・ウィリー(Prader-Willi syndrome:PWS)の発症メカニズム解明に向け遺伝学的解析を行い、特にヒト患者検体の解析からPWSの表現型を規定する遺伝要因を検討する事を研究目的とし進めている。今年度の研究計画は、臨床症状より疑われ遺伝学的にPWSが否定された症例においてDNAアレイ解析および表現型調査を行い、染色体微細コピー数異常の同定を行う事を目標とした。併せて染色体微細コピー数異常を認めた症例において表現型解析を行い、十分な遺伝型表現型の検討を行う事も目標と設定した。DNAアレイ解析を全例に対して実施した結果、78例中に21例において、IMb以上の微細コピー数異常を同定した。内訳はPWS様表現型を呈することが既に報告されているコピー数異常が3例、精神遅滞などの原因であることが報告されているコピー数異常が12例、精神遅滞や自閉症などの疾患感受性が報告されているコピー数異常が3例であった。残り3例はこれまでに報告のないコピー数異常であり、良性のコピー数多型としての報告と一致しない位置であった。また両親の検討が可能であった10例は全てde novoの異常であった。これらの染色体微細コピー数異常が同定された症例の表現型解析を行ったところ、PWSの一症状である乳児期筋緊張低下、精神発達遅延がほぼ全例で認められた。男児例では停留睾丸も併せて呈していた。さらに3歳以降では乳児期症状と併せ肥満症状を呈する例が増えていた。現在これらのまとめの論文作成を行っている。これら21例中に新規性の富む7p15微細染色体欠失症候群および5q31.3微細欠失症候群を同定し、詳細な遺伝型解析に加え過去の症例との比較検討などの表現型解析を行い、論文報告を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究で同定した21例の中で、特に新規性の富む微細染色体異常として7p15欠失症候群および5q31.3欠失症候群を同定した。7p15欠失症候群においては、本例の解析の結果からHOXA13遺伝子ハプロ不全と欠失領域に存在するその他の遺伝子欠失との組み合わせにより、臨床的に認識可能な症状を示す疾患である事を提案し、これらをまとめた論文を作成し掲載が受理されている。また5q31.3欠失症候群は疾患概念が十分に確立していない疾患である。本研究で同定した2例の5q31.3欠失症候群症例から疾患概念の確立および候補遺伝子の同定を行うことができ、これらをまとめた論文を作成し掲載が受理されている。よって今年度は研究計画に沿い実験も進み、その中から論文も2本報告する事が出来ており、順調に進展していると考える。
本研究で施行したDMアレイにより21例の微細染色体異常例を同定し詳細な表現型解析を行っている。これらの症例はPWSと類似した表現型を呈する事が表現型解析より明らかとなり、同定された微細染色体異常領域内ではPWSの表現型を規定する遺伝要因が含まれる可能性が示唆される。またPWSの責任遺伝子は現在も不明であり、有力な候補遺伝子はsnoRNAの1つであるHBII-85と考えられている。これは単独では機能せず相補的な遺伝子と相互作用し機能する事が示唆されている。HBII-85の単独欠失によりPWSの表現型を呈する事は報告されており、これよりHBII-85の相補遺伝子異常でもPWSと類似した表現型を呈すると仮定する。そこで今年度同定した微細染色体異常例に対し、その領域に位置する遺伝子のin sihco解析を行い、PWSの病態へ関連する可能性のある遺伝子を評価する。併せてPWSの候補遺伝子として注目されているHBII-85の機能解析施行を目標とし、ノーザンプロット法などを用いた解析を計画している。
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巻: (掲載確定)(電子版2012年6月号掲載予定)
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