免疫細胞が腫瘍の抑制に関与しているかを検討するために、我々が確立した新たな皮膚癌モデルマウス(AIDトランスジェニックマウス)を免疫不全マウスと交配し、皮膚癌の発症頻度を検討した。その結果、交配前のマウスと比較して、免疫不全マウス背景のAIDトランスジェニックマウスは皮膚癌の発症頻度が増大する事が判明した。この事は、免疫不全マウスにおいて欠損しているT細胞が皮膚癌の発症抑制に関与している可能性を示しており、T細胞のどのサブセットが皮膚癌抑制に有効であるかをさらに検討する課題を得た。また、AIDトランスジェニックマウスにDMBAとTPAを用いた化学皮膚発癌を適用したところ、皮膚癌発症頻度のさらなる上昇を認め、また興味深い事に、DMBAあるいはTPA単独においても皮膚癌の発症を認め、AIDはDMBAによるinitiationとTPAによるpromotionのいずれをも代替し得る事が判明した。この事は、これまで一般的に考えられてきた多段階発癌という概念において、AIDが各段階において発癌に関与し得る事を示唆する結果となった。また、内在性AIDの発現が皮膚癌の発症に寄与するかどうかを検討するために、AID欠損マウスにDMBとTPAを用いた化学皮膚発癌実験を適用したところ、野生型と比較して、AID欠損マウスにおいて有意に皮膚腫瘍数の減少が見られた。TPA刺激によってAIDの発現上昇が見られる事から、AIDは刺激依存的に発現上昇し、皮膚癌の発症へ関与し得る事が示唆された。また、AIDトランスジェニックマウスにおいては、長期観察により頭頚部癌も自然発症する事が判明した。AIDトランスジェニックマウスに4NQOを用いた口腔化学発癌モデルを適用したところ、口腔腫瘍の発症頻度が増大した。この事より、皮膚癌と同様に、口腔の扁平上皮細胞においてもAIDは発癌に寄与し得る事が判明した。
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