研究概要 |
本年度の計画に従い野外捕獲と国内外博物館から広範な哺乳類の胎子を入手した.収集が特に進んだ食虫類(ハリネズミ科,モグラ科,トガリネズミ科)を対象として,地上棲,地中棲,水棲など多様なニッチを網羅する11種の胎子期における頭部の骨発生パターンについて世界で初めて詳細な報告を行った(Koyabu et al., 2011, EvoDevo).食虫類における発生パターンが系統樹上でいかに改変されてきたかの過程(ヘテロクロニー)を分析するとともに,発生パターンが生態分化と関連するかについて検討を行った.その結果,食虫目のなかから地中棲モグラ類が分岐した際,吻部と頸部の構成骨の形成タイミングが著しく早期化したことが明らかになった.一方,地上棲の強いモグラであるヒミズでのみ,地中棲モグラ類とは対照的に,吻部と頸部の構成骨の形成タイミングが遅く,骨発生パターンはその他モグラ類よりもむしろ地上棲ハリネズミやトガリネズミに酷似することが示された.また,こういった形成タイミングの改変が成熟時の種間形態差を生み出す可能性を指摘し,生態ニッチの分化が発生パターンの分化と対応している可能性について言及した.さらに,地上棲動物と地中棲動物の体肢骨の形態分化と発生パターンの分化の対応関係について分析した報告を行った(Hugi, Hutchinson, Koyabu, Sanchez-Villagra, in press, Zoology).四肢が退化した種では四肢骨の骨形成タイミングが頚椎,肩甲骨,骨盤にくらべ晩期化するパターンが明らかになった.胎子期の初期発生パターンが進化的に改変されると,最終的な形態が変化し,生態分化を引き起こされる可能性があることを示すとともに,Koyabu et al.(2011)で提唱された「成熟時の骨サイズの進化的改変は骨の発生タイミングの改変と対応する」という仮説を支持する結果を得た.
|