研究概要 |
本年は各国の希少な胎子標本を収集するべく、ベルリン自然史博物館、オーストリア自然史博物館、チューリッヒ大学古生物学博物館、ストックホルム自然史博物館、ベルン自然史博物館を訪問した。各博物館から収集した胎子標本は東京大学総合研究博物館およびチューリッヒ大学古生物学博物館でマイクロCTによる撮影を行い、昨年に引き続き哺乳類における骨形成の発生を観察した。さらに哺乳類だけでなく、哺乳類以外の羊膜類の標本も比較のために観察を行った。最終的に300種の哺乳類と32種の非哺乳類羊膜類の分析を完了した。この過程で本年は画期的な発見をするに至った。300種以上におよぶ現生哺乳類の胎子期の発生と化石記録を網羅的に分析したところ,定説では哺乳類では進化的に失われたとされてきた頭頂間骨が胎子期には全ての種の哺乳類で存在することが確認された.つまり,祖先的な爬虫類から受け継がれた頭頂間骨はヒトやウシ,イヌだけでなく,すべての哺乳類に保存されていることが示され,哺乳類で失われたとされてきた板骨も胎児期に全ての種の哺乳類で存在することが確認された.多くの種では,頭頂間骨と板骨は胎子期に形成された後,成長にともなって隣接する上後頭骨にこれらの骨がすぐに癒合することが確認された.哺乳類の多くの種では存在しないとされてきた頭頂間骨と板骨だが,胎児期の骨格を詳細に観察から,これらの骨はすべての哺乳類で確かに存在することが結論付けられた.この事実は,祖先的な魚類が有していたとても古い骨である頭頂間骨と板骨が,今日の哺乳類においても失われることなく残存していることを示すものであり、科学界における最重要科学誌のひとつである米国科学アカデミー紀要に本報告を行った。脊椎動物の骨格の進化に関する従来の定説を覆し,生物学の教科書を大きく書き換える画期的な成果であり、本報告はForbes"、"National Geographic"、"Sci-News"、"産経新聞"、"京都新聞、"日刊工業新聞"などでも記事が掲載され、世界的な注目を浴びた。
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