研究課題
本研究では、P2X7受容体の発現機構の解明を軸に、P2X7受容体の発現を抑制する皮膚組織中の内因性制御リガンドとそのセンサー(受容体)の同定と、核酸成分受容体群(TLR7、TLR9、P2X7受容体)の複合的な免疫学的解析を行うことで、炎症性腸疾患や関節炎などの炎症性疾患での細胞外核酸の働きと新規治療法の確立を目指す。本年度においては、皮膚に存在する内因性制御リガンド・センサーの同定と、マスト細胞におけるP2X7受容体の発現・機能制御分子の生体における役割を解析した。実施状況を下記に示す。(1)皮膚における内因性制御リガンドの探索1.初年度において、皮膚における免疫抑制因子である、ビタミンD3ならびにプロスタグランジンは目的とする内因性リガンドではないことが明らかとなった。次に内因性リガンド産生細胞の探索を行ったところ、皮膚線維芽細胞が内因性リガンドの産生細胞であることが明らかとなっている。2.本年度においては、皮膚線維芽細胞、NIH3T3、腸管間質系細胞の三者間の遺伝子プロファイリングを行い、皮膚線維芽細胞が関係する内因性リガンドの同定ならびに関連分子の探索を行った。その結果、レチノイン酸とレチノイド分解酵素がP2X7の発現および機能制御に深くかかわっていることが明らかとなった。3.そこで、in vitroの解析により皮膚線維芽細胞のレチノイド分解酵素を阻害したところ、P2X7抑制能が損なわれることが示された。ヒトではレチノイン酸の過剰は皮膚障害を引き起こすことが古くから知られており、レチノイン酸(ビタミンA)の含有量が高い肝臓などの組織を食すことで、皮膚炎が起こることが報告されている。例えば、ホッキョクグマの肝臓を食べるエスキモーによく皮膚炎がおこっておりこと挙げられる。また、レチノイン酸の塗布薬の副作用として、皮膚炎が起こることがあり、過剰量のレチノイン酸の皮膚障害が示されている。そこで、レチノイン酸過剰投与マウスモデルを構築し、慢性レチノイン酸過多を引き起こしたところ、ヒト知見に類似した皮膚障害が観察された。4.上記の慢性レチノイン酸過多状態のマウス皮膚組織を解析したところ、P2X7の発現増強が観察され、さらにP2X7欠損マウスでは、レチノイン酸過多による皮膚炎が観察されなかった。このことから、皮膚線維芽細胞によるレチノイド分解が破綻すると、マスト細胞上のP2X7の発現が増強し、マスト細胞が活性化することで、皮膚炎が誘導されることが明らかとなった。5.これは、レチノイド過剰症、ならびにレチノイン酸療法の皮膚炎症のメカニズムの一つとして考えられ、炎症疾患の発症機構のみならず、レチノイン酸療法の合併症の治療法の確立の可能性として示される。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度は内因性リガンドの産生細胞の探索を目的とした取り組みを行った。その結果、免疫細胞ではなく線維芽細胞が内因性リガンドの産生細胞であるということが明らかとなり、本年度の目標とした内因性リガンドの同定に向けて、遺伝子解析を中心的に取り組んだ。その結果、皮膚線維芽細胞に発現するレチノイド分解酵素の関与が示された。この分解酵素を阻害すると内因性因子のレチノイドの過多により皮膚炎が起こることが明らかとなった。これは、レチノイド過剰症ならびにレチノイン酸療法の皮膚炎症のメカニズムの一つとして考えられ、炎症疾患の発症機構のみならず、レチノイン酸療法の合併症の治療法へ応用が期待される。
本研究が、レチノイド過剰症ならびにレチノイン酸療法の皮膚炎症のメカニズムの一つとして考えられ、炎症疾患の発症機構のみならず、レチノイン酸療法の合併症の治療法の確立につながる可能性があることから、ヒト検体を用いて本発見がヒト疾患にも関与している可能性を示唆する。
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Nat Commun.
巻: 10-1038 ページ: 1038
10.1038/ncomms2718
巻: 3-1034 ページ: 1034
doi:10.1038/ncomms2023,2012