研究課題/領域番号 |
11J04866
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松元 芳子 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 造血幹細胞 / 細胞分裂 / 対称・非対称分裂 / Tie2/Angipoietin1 / 自己増幅 |
研究概要 |
本研究では、造血幹細胞が分裂して生じるペアとなった娘細胞(Paired Daughter Cells:PDCs)を対象に単一細胞レベルでの遺伝子発現解析を行い、造血幹細胞の分裂様式を決定する分子・遺伝子群を特定することを目的としている。これまでのPDCs解析により、Tie2がPDCsで高度に非対称性に発現しており、造血幹細胞の非対称分裂様式制御に寄与していることが示唆された。そこで、8週齢の成体マウス・4週齢の幼若期マウスより高度に純化された造血幹細胞を採取し、Tie2のリガンドであるAngiopoietin1(Angpt1)を添加する、あるいは添加しない条件(コントロール)で培養して、生じるPDCsについての遺伝子発現解析を行った。すると、コントロール培養条件では8週齢にくらべ4週齢の造血幹細胞が非対称性に分裂していること、培養条件にAngpt1を添加することで非対称性に分裂していた4週齢の造血幹細胞の対称分裂の割合が増加すること、の二点が明らかとなった。この結果からは、幼若期におけるTie2/Angpt1シグナルが造血幹細胞の自己増幅を伴う対称分裂を促している可能性が考えられた。そこで、Angpt1の組替え体であるCOMP-Angpt1を骨芽細胞で特異的に過剰産生する遺伝子改変マウス(Col1a1-Cre/COMP-Angpt1マウス)を作成し、このマウスあるいはコントロールマウス由来の造血幹・前駆細胞分画に含まれる骨髄再構築能をもつ造血幹細胞数を限界希釈法を用いた移植実験で評価した。すると、Col1a1-Cre/COMP-Angpt1マウス由来の細胞の中に造血幹細胞がより多く含まれていることが明らかとなり、Tie2/Angpt1シグナルの新たな機能として、幼若期造血幹細胞の自己増幅を伴う対称分裂を促し造血幹細胞数の増加に寄与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PDCs遺伝子発現解析の結果、造血幹細胞の対称/非対称分裂の決定に関与すると考えられる候補遺伝子がすでに選出された。そのうちTi2/Ang1シグナルについては、遺伝子改変マウスを作成し、造血幹細胞の分裂様式制御における機能を明らかにしつつある。またこの結果は、我々のPDCsでの遺伝子発現解析系が、分裂様式制御に関わる因子の抽出に有用であることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
培養プレートをレトロネクチンコートするなど、培養条件を変えてPDCsを採取し、遺伝子発現解析を用いて自己増幅を促す条件を模索し、造血幹細胞培養の最適化を進める。また、造血幹細胞の自己増幅を促すと示唆されたAngpt1等の因子も培養系に組み込む。この際、得られるPDCsの単一細胞移植を合わせて行うことで、実際に骨髄再構築能をもつ娘細胞が産生されているのか検討する。また、非常に近似した2つの造血幹・前駆細胞分画(LSKCD34^-CD41^-CD48^-CD150^+Evi1GFP^<high>とLSKCD34^-CD41^-CD48^-CD150^+Evi1GFP^<low>)においてマイクロアレイ解析を行い、両者で発現の異なる遺伝子を新たな解析対象として抽出したので、この新たな遺伝子セットを用いてPDCの遺伝子発現を解析し、分裂様式に関与する新たな分子を同定していく。
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