本研究は、造血幹細胞および造血幹細胞が分裂して生じるペアとなった娘細胞(Paired Daughter Cells(PDCs)を対象に単一細胞での網羅的定量PCR解析を行い、その結果から、造血幹細胞の分裂パターン制御に寄与する分子・遺伝子を特定することを目的としている。昨年度までの解析結果からは、Tie2/Angpt1シグナルが造血幹細胞の自己複製を伴う対称分裂を促している可能性が示唆された。 本年度は、遺伝子発現プロファイルの解析手法に高度な学習モデルであるSupport Vector Machine(SVM)classifierを取り入れた。この手法では、まずSVM classifierに造血幹細胞および前駆細胞の遺伝子発現プロファイルを入力してその特徴を学習させる。その上で娘細胞の遺伝子発現プロファイルを入力すると、親細胞の遺伝子発現プロファイルとの比較により、各々の娘細胞を「幹細胞」か「前駆細胞」のいずれかに分類することができる。SVMC Classifierによる解析の結果、培養液にAngpt1が添加されていることで、造血幹細胞が「娘幹細胞」を2つ生じる対称分裂を行う割合が増えることが明らかとなった。さらに今年度は、プラスチック細胞培養プレートに比べ柔らかく保水性に優れた、Polyethylene glycol(PEG)hydrogel microwell上で造血幹細胞を培養しPDCアッセイを行った。そして娘細胞の遺伝子発現プロファイルについてSVM classifierによる解析を進めたところ、PEG hygdrogel microwell上で培養された造血幹細胞は、「娘幹細胞」を2つ生じる対称分裂をする割合が高く、この割合は培養メディウムにAngpt1を添加することでさらに上昇することが明らかとなった。以上の結果は、培養条件を骨髄ニッチに近づけることで、造血幹細胞増幅できる可能性を示唆している。
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