本研究は、1960年代から1970年代前半、沖縄の日本「復帰」をめぐって取り組まれた「沖縄闘争」の検証を通じて、社会運動が国家や人種、民族などの境界線を「越境」する実相、その際生まれる複雑な関係性の実態を明らかにすることを目的とした。沖縄闘争とは、米国の沖縄の直接統治と日米両政府による沖縄「返還」政策を批判した、沖縄、日本「本土」、そして海外の人々によって取り組まれた多様な政治闘争、社会運動、文化運動である。 2年次である2012年度は2つの目標を設定していた。第1に、多くの沖縄出身者を受け入れてきた大阪を中心とする関西地域における沖縄闘争の歴史を明らかにすることである。この点については、1968年に結成された大阪の市民グループ「大阪沖縄連帯の会」(デイゴの会)を事例として、「大阪のなかの沖縄問題」の「発見」の過程を調査し、その内容を考察した。第2に、沖縄闘争における国内植民地論や植民地主義論の登場の背景と内容を明らかにすることである。具体的には、「在日沖縄人」のグループであった沖縄青年同盟(沖青同)の運動・思想を調査し、分析した。 その結果、1年次の作業成果も含め、2012年9月、博士論文「沖縄の日本『復帰』をめぐる社会運動の越境的展開--沖縄闘争と国家」を提出、受理された。本論文は、沖縄闘争を多様な運動と思想とが出会い、共闘し、すれ違う、複雑な諸関係によって形作られたアリーナとして考察した。本研究の意義は、これまで、沖縄闘争が沖縄の人々の運動や思想を中心に論じられてきたのに対し、日本「本土」や海外の人々の思想・運動に初めて本格的に光を当て、実践の背景、動機、形成された共同性やコンフリクトの実相を明らかにした点である。また、同時代の世界各地の植民地解放闘争や反体制運動と沖縄闘争との共振や連動を析出し、「越境」という視座から、一国史的傾向の強い社会運動史研究に新たな問題提起を行なった。
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