研究概要 |
本研究の目的は,ドラッグデリバリーシステム(DDS)に用いる新規磁性ビーズ材料の開発である.DDSとは,薬物配送システムとも呼ばれ,体内の薬物分布を,量的・空間的・時間的にコントロールすることで,抗がん剤などの副作用の問題を解決し,薬物投与の最適化を目指したアプローチであり,近年,急速に研究が進んでいる.DDSには,「運搬機能」,「非吸収機能」,「放出機能」など様々な機能が求められており,薬学だけでなく,高分子や有機化学など幅広い分野の知識が必要な研究である。本年度の主な目的は,「高分子膜に用いるモノマーの選定および高分子膜の収縮・膨張の制御法の検討」とDDSに不可欠な分子認識技術の確立である. まず,モノマーの選定として生体適合性の高いポリエチレングリコール(PEG)を用い,種々の条件によって体積が変化するハイドロゲルを合成した.その結果,PEGの構造内のエチレンオキシドユニット数を変えることにより,ゲルの強度や膨潤・収縮率が大きく変化することが観察された.種々の合成条件を検討した結果,本実験に用いる最適なエチレンオキシドユニット数のPEGモノマーを選定することができた.さらに,イオン基を導入したハイドロゲルでは,複数のイオン基を持つ化合物に対して,距離認識による膨潤・収縮挙動の変化が観察され,ゲルの組成や重合条件を変えることにより,ゲルの収縮・膨張挙動を制御できる可能性が示唆された. また,分子認識技術の確立として,揮発性有機化合物やPCBに対して選択的吸着を可能とする新規材料の開発を試みた.その結果,合成時に使用した多孔質化溶媒を選択的に認識する溶媒インプリント効果の有効性が実証され,非常に簡便な操作で分子認識能を材料に付与することが可能であることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
刺激応答性高分子の概念が,生体適合性の高いポリエチレングリコールのモノマーにおいても有効であることが示された.さらに,距離認識により合成したハイドロゲルの膨潤・収縮挙動が変化することが観察され,本研究の概念が達成可能であることが示唆された.また,本研究では,複数の分子認識技術を利用するため,様々な分子認識技術を確立することは不可欠であるが,本年度は,分子認識技術に関して,一つの論文を発表することができた.(さらに,もう一つの論文を投稿中である.)
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今後の研究の推進方策 |
今後は,まず,距離認識によるハイドロゲルの膨潤・収縮挙動のメカニズムを明らかにし,合成条件を変えることにより,膨潤・収縮挙動の制御を進めていく予定である.また,ハイドロゲルの合成に用いたポリエチレングリコールのモノマーを利用し,タンパク質をターゲットとした分子インプリントポリマーの開発を進めていく.さらに,これら二つの技術の複合化を行い,複数の分子認識が同時に作用することが可能であるか検討を進めていく.
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