環境への負荷の低い有機合成を可能にする触媒の開発が注目されている。申請者は、これまでに芳香族C-H結合の活性化を経る選択的炭素-炭素結合反応など種々の分子変換反応に有効なセリア担持ルテニウム触媒等を見出しているが、本研究では、分光学的解析手法による触媒活性種の構造と発生機構の解明を図り、その結果をもとに広範な分子変換反応への展開を試みた。 酸化物担持Ru触媒のアルキンとアクリル酸エステルのカップリング反応への適用可能性を検討した結果、セリアおよびジルコニア担持ルテニウム触媒がギ酸ナトリウム共存下で、極めて高い活性を示すことを明らかにした。一方、シリカ、アルミナ、チタニア、およびマグネシアに担持したRu触媒は全く活性を示さなかった。これらの担持ルテニウム触媒を分光学的手法によって解析した結果、シリカ、アルミナ、チタニア、およびマグネシア上に担持されたルテニウム種は6配位の酸化ルテニウムと類似した構造を有していたが、セリア上のRu種はより歪んだ配位構造を有するルテニウムオキソ種として存在していることを明らかにした。このルテニウムオキソ種が反応初期段階に低原子価Ru種に変換され、触媒活性が発現したと結論している。本触媒系は内部・末端アルキンの双方に適応可能であり、さらに異種アルケンとのクロスカップリング反応にも有効であった。 さらに、セリアおよびジルコニア担持ルテニウム触媒がギ酸ナトリウムおよびリン配位子存在下で、アルキンの芳香族アルデヒドによるヒドロアシル化反応に優れた活性を有することを見出した。これまでの錯体触媒などでは、副反応である脱カルボニル化の抑制のために、配位性の官能基を有するアルデヒド等に適用範囲が限られていたが、本触媒系を用いた場合は、配位性の官能基を必要とせず、基質の適用範囲が広がった。 これらの触媒は顕著な活性の低下を伴うことなく再利用可能であり、優れた環境対応性能を有している。
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