研究課題
ジンクフィンガー(zinc finger;ZF)は約30アミノ酸が亜鉛イオンを配位してββα構造を形成する。αヘリックスの-1,3,6番目のアミノ酸残基の側鎖がDNA3塩基に結合することから、ZFを組み合わせることで標的DNA配列の特異的な認識が可能になる。この特徴を利用しZFをDNA切断酵素FokIのDNA結合ドメインとした人工DNA切断酵素のジンクフィンガーヌクレアーゼ(zinc finger nuclease;ZFN)の創製が可能である。本研究ではZFNをがん細胞特異的に作用させ、がん細胞の増殖に関わる遺伝子のノックダウンシステムの構築を目的とした。現在のがん研究においては分子レベルでの治療法を視野に入れた研究が行われている。その標的分子機構の一つとしてがん細胞染色体末端のテロメアにおけるテロメラーゼの発現上昇が挙げられる。がん細胞中でのテロメラーゼ活性の低下は、がん細胞の増殖を抑制する可能性がある。テロメラーゼは染色体3'末端にTTAGGG配列を付加させる酵素であり、主に触媒サブユニットhTERTと鋳型となるRNAサブユニットから構成される。がん細胞内では(1)hTERTプロモーターの活性化(2)hTERT遺伝子の発現(3)テロメラーゼ活性化という経路が成立している。そこでがん細胞特異的なタンパク質発現システムとしてテロメラーゼの利用を思い立った。hTERTプロモーターはがん細胞特異的に活性化しているため、hTERTプロモーターの下流にZFNを発現させることができる。発現したZFNはゲノム上のhTERTプロモーター領域2ヶ所で切断反応を起こし、hTERTプロモーターを除去することでがん細胞特異的な増殖抑制を目指す。標的配列に結合するZFを構築した後にFokIを融合させたZFNの切断活性を試験管内で解析した。活性をもつZFNペアを見出したので、現在は細胞内での切断反応を評価している。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度ではin vitroでの反応評価により標的配列に反応するジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を選択することができた。現在は細胞内の評価に移行しているためほぼ予定通りに進行していると考える。
今後は細胞内でのジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)の発現確認およびhTERTプロモーター領域除去によるがん細胞増殖効率変化、テロメラーゼ活性変化、形態変化やアポトーシスの有無の評価を行う。さらに正常細胞にZFNを導入する場合と比較し、がん細胞特異的に切断反応が行われることを検出したいと考えている。最終的にがん細胞特異的に細胞傷害を引き起こすことが可能になればZFNを応用した新規バイオ医薬品開発に向けた基礎的知見になると考えている。
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Biochemistry
巻: 51 ページ: 1510-1517
10.1021/bi201878x
http://www.tmd.ac.jp/i-mde/www/molb/publication/index.html