研究概要 |
本研究はゼブラフィッシュを用いてリゾホスファチジン酸(LPA)前駆体供給経路、産生されたLPAの代謝経路、およびLPAの輸送経路を個体レベルで明らかにすることである。そのために、モルフォリノを用いて機能を抑制したゼブラフィッシュの表現型解析とマススペクトロメトリー(MS)による高感度な脂質分析法を組み合わせて、機能的かつ生化学的にLPA代謝経路を明らかにする。 LPAの産生・分解経路は複数存在し、また脂肪酸の種類と同じだけLPAの分子種が存在するため、代謝機構全体を理解するには、LPAとその代謝物を脂肪酸別に幅広く網羅的に測定できる方法が必要不可欠である。そのため、脂質を脂肪酸別に分離できる逆相カラムを用いた脂質測定方法の確立を目指した。これまでLPA,ホスファチジン酸(PA),ホスファチジルセリン(PS)の逆相カラムを用いた分離条件ではピークがブロードとなり、分離が不十分であることが問題であった。そこで私は、カラムと移動層条件を検討したところ、C18MGII、C18ACRカラムと移動層A(5 mM ammonium form ate in water pH4.0)、移動層B(5 mM ammonium formate in 95%(v/v) acetonitrile pH4.0)を組み合わせることで、LPA,PA,PSのすべてを逆相条件で分離することが可能となった。HeLa細胞から脂質を抽出し、上記の条件を用いてMS/MS(SRM)解析を行ったところ約85種のジアシルリン脂質、35種のリゾリン脂質、10種のスフィンゴ脂質を同定することができた。ゼブラフィッシュは脂質を豊富に含むegg yolkと呼ばれる組織を有しており、ゼブラフィッシュ個体の脂質解析においてこの組織を除くことが必要である。私は、2種類のバッファーを用いることでegg yolkの個体への混入をタンパクレベルで1/1000以下まで除くことに成功した。分離した個体とyolkの脂質解析を行ったところ、個体では飽和脂肪酸を有するリン脂質が多く、yolkでは不飽和脂肪酸を有する脂質が多いことが分かった。このことは個体とyolkでは異なる脂質代謝メカニズムが存在することを示唆している。
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