研究課題
ホスホリパーゼA1(PLA1)は、リン脂質のsn-1位の脂肪酸を加水分解して、2-アシルリゾリン脂質を産生する酵素である。PLA1は細胞内型、細胞外型に大別される。細胞内型PLA1(iPLA1)は線虫、ショウジョウバエでは1種類、脊椎動物に3種類(iPLA1 α、β、γ)存在する。このうち線虫iPLA1は主にホスファチジルイノシトール(PI)のsn-1位の18:1の脂肪酸を切り出し、18:0の脂肪酸を導入するリモデリング反応を促進して、幹細胞様上皮細胞の非対称分裂に関わることが分かっている。また、脊椎動物では、遺伝性痙性対麻痺と呼ばれるヒト遺伝病の原因遺伝子としてiPLA1 α、γが同定された。リコンビナントタンパクを用いた実験では、iPLA1 α、γが様々な種類のリン脂質に対して特異性を示すことが分かっている。しかし、細胞内での基質特異性や機能に関して不明な点が多く残されている。そこで我々は、高速液体クロマトグラフィー/マススペクトロメトリー(LC/MS)を用いた網羅的なリン脂質測定方法を開発し、細胞内におけるヒトiPLA1のリン脂質代謝機能を解析した。ヒトiPLA1 αの野生型と活性中心変異型を過剰発現したHeLa細胞を比較すると、PIの総量に変化はみられなかったが、野生型では変異型と比べて18:0を含むPIの量が増加して、一方で18:0を含まないPIが減少した。逆に、iPLA1 αをノックダウンしたときには、18:0を含むPIの量が減少して、18:0を含まないPIが増加した。PI以外のリン脂質では総量、脂肪酸組成ともに大きな変化は見られなかった。また、iPLA1 γをノックダウンした時、iPLA1 α同様、18:0を含むPIの量が減少して、18:0を含まないPIが増加した。このことから、細胞内においてiPLA1 α、γが線虫と同様にPIのsn-1位の18:1の脂肪酸を切り出し、18:0の脂肪酸を導入するリモデリング反応を担っていることが示唆された。PIあるいはその代謝産物が関わる生体内機能の異常が遺伝性痙性対麻痺の発症の原因となっている可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
リゾリン脂質とジアシルリン脂質を網羅的に測定できる方法を確立した。この方法を用いて、iPLA1αとiPLAIγが脂肪酸リモデリングに寄与していることを発見した。
脂肪酸リモデリングの意義を解析する。現在、iPLA1がオートファジーに関わることを見出している。また、遺伝性痙性対麻痺の原因の一つに小胞輸送やオートファジーの関与が示唆されている。このことから、iPLA1がリモデリングを制御することで、PIあるいはその代謝物がオートファジー、小胞輸送の機能を調節しているか検討する。
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Nature
巻: 491 ページ: 284-287
10.1038/nature11509