研究課題/領域番号 |
11J05219
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
蓬田 幸人 玉川大学, 脳科学研究所, 特別研究員(PD)
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キーワード | 社会規範 / 信念 / 説得 / fMRI |
研究概要 |
社会的な集団の中で共有される価値観としての「社会規範」は、その集団に属する個々人の行動原理として内在化され、集団・社会の形成や維持に大きな役割を果たす。この、「社会規範」が集団内で共有され、個人の意思決定・行動を規定していく過程の神経基盤を順次明らかにする為に、平成24年度は「説得による社会規範の変化過程」に関わる脳活動領域の同定を目指した。 ある社会の中で「社会規範」は流動的である。ある「社会規範」に対する個人の態度は、対人間、あるいはメディアを通じた説得的コミュニケーションを通じて肯定的にも否定的にも変化し、結果として環境保護運動の高まりや人種差別的ルールの撤廃といった大きな社会規範の変化をもたらす。本研究ではMRIスキャナ内で説得的メッセージを提示して被験者の社会規範に対する態度を変化させ、その過程に特異的な脳領域を、機能的MRIを用いた脳機能イメージングの手法にて同定した。また、この過程に社会規範に対する態度自体を表象する領域がどう関わるのかも明らかにすることを目指した。実験では27人の被験者に説得的メッセージを提示して被験者の社会規範に対する態度を肯定的あるいは否定的に変化させ、その際の脳活動を計測した。また、説得の対象になったものを含む様々な社会規範に対する被験者の態度を説得の前後で測定し、説得による態度変化の度合いを測定するとともに、その際の脳活動を計測して態度自体の表象に関わる脳領域を同定した。結果、説得による社会規範に対する態度変化の過程に特異的な脳領域として、両側の前頭前野内側部、背外側前頭前野、下前頭回、側頭極、側頭頭頂連合部、楔前部を同定した。また、説得により社会規範に対する態度が否定的に変化する過程に特異的な領域として、左側の中側頭回を同定した。また、左側の側頭頭頂連合部が、態度表象の脳領域のうち、社会的規範の説得特異的に関わる領域として同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度は、申請計画どおりに研究を進め、研究テーマである「社会的な規範1価値観の共有による社会形成に関与する脳神経基盤」のうち、「価値観の共有が集団内コミュニケーションを介して個人の意思決定に影響する過程の神経基盤」の核となる、「説得による社会規範の変化過程」に関わる脳活動領域を明らかにした。この発見は当該分野の発展において大きな進歩となる知見であり、平成24年10月には同成果を国際学会(Society for social neuroscience 2012)で口頭発表した。今後は国際学会誌への投稿・発表の予定である。申請研究は順調に遂行されていると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、前年度に行った「社会規範が集団内のコミュニケーションを介して共有される過程の神経基盤同定」について、fMRI実験での結果を補足する生理指標測定の実験をサセックス大学の金井良太博士と共同でUniversity College of Londonにて行う。また、これまでの研究成果を第36回日本神経科学大会等で発表し、国際学会誌への投稿・発表を行う。
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