小脳は、従来から知られている種々の運動調節に加えて、認知機能や自律神経機能の調節など多彩な機能に関与することが示唆されている。これら多種類の機能出力は、小脳の主な出力核である内側核(室頂核)、前・後中位核(栓状核・球状核)、外側核(歯状核)のわずか4種類の部分からなる小脳核によって果たされている。したがって、小脳が多彩な機能を果たすためには、それぞれの小脳核のなかに、細かい機能区分、あるいは機能的に異なる複数種類のニューロンが含まれているなどの構築の存在が必要と考えられる。そのため、本研究においては、小脳核内のそれらの機能構築を明らかにすることが目的である。本年度は、まず、小脳内側核を形成するニューロンの同定を行った。急性単離した約70個のマウス内側核の単一ニューロンに含まれる神経伝達物質関連遺伝子やイオンチャネル遺伝子などをqPCRで定量し、それらの発現量のデータを元にクラスター分析を行った。すると、内側核の興奮性および抑制性のニューロンのそれぞれについて、興奮特性が異なると想定される複数種類のニューロングループが存在することが明らかとなった。また、本年度は、機能区分の観点から小脳核構築を調べる目的で、Aldoc-GFPノックインマウスを新潟大学の崎村教授らとの共同研究により作製した。Aldocは小脳の機能区分である縦帯区画を染め分けることのできるマーカーであるが、このマウスはその縦帯区画の可視化を意図したものである。このマウス小脳を蛍光実体顕微鏡で観察すると、in vivoにおいてもAldoc陽性および陰性の縞模様が見えることが確認された。このマウスにおいて、マウス小脳におけるAldoc発現パタンを詳細にマッピングしたアトラスを作成した。このマウスを用いることで小脳の虫部、傍虫部、および半球部という従来の区分よりも細かい区分を考慮した生理学実験が可能になると考えられた。
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