研究課題
免疫系の細胞でFasの欠損や変異による機能の失活がALPS等の自己免疫疾患を引き起こすことが報告されている。本研究にて明らかとなったことの自己免疫疾患や癌、免疫不全等免疫に関わるあらゆる疾患の治療への応用は期待する成果の一つである。Fasの感受性獲得にIRF5に依存したインターフェロン(IFN)βの産生が必須であることは前年度既に報告した。そこでIFNβの産生が自己免疫疾患でも重要な働きをしていると考え、IRF5と同様にIFNβの産生寄与していることが報告されているIRF3で実験的自己免疫性脳脊髄炎(Experimental autoimmune encephalomyelitis, EAE)モデルを用い検証した。EAEの発症・進行にはヘルパーT(Th)細胞のサブセットであるTh1やTh17が寄与していると考えられている。また、IFNβはEAEの回復に寄与していることも知られている。IRF3ノックアウト(KO)マウスではRIG-11ikereceptor(RLR)への刺激においてThlやThl7への分化に機能するインターロイキン(IL)-12p40の産生が野性型マウスに比べて顕著に高いことやIFNβの産生が抑えられることからEAEの症状が増悪されることが予想された。ところが驚くべきことに、実際はEAEが全く発症しなかった。IRF3KOマウスでT細胞の分化異常が起こっているかどうか調べるため、始めにin vitroでT細胞分化反応を解析した。脾臓からnaive T細胞を単離して様々なサイトカインを添加し、Th1、Th2、Th17、制御性T細胞(Treg)への分化を検討したがこれらの分化に野生型マウスとの差異は見られなかった。さらにRag1KOマウスにIRF3KOマウスと野生型マウスの脾臓から単離したCD4陽性T細胞を移植し、EAE発症実験を行ったがEAEの発症・進行に差異は認められなかった。このことより、IRF3KOマウスではin vivoでもT細胞の分化が正常であることが示唆された。以上の結果からIRF3KOマウスで見られたEAE未発症はT細胞そのものの分化異常に由来するものではないことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本研究テーマを進めていく上でIRF3と自己免疫疾患のモデルであるEAEとの関連性を示唆するデータを得ることができた。自己免疫疾患の治療への応用が期待されるような基礎研究は本テーマの課題の一つであり、その一端を示すデータを得られたことは研究が順調に進展していることを示すものである。
今年度得られた結果より、IRF3のEAEへの寄与はT細胞の分可能に起因する小野ではないことが示唆された。今後は他の免疫細胞(特に樹状細胞)でIRF3を介したEAE発症メカニズムを解析することにより、本研究のメインテーマである樹状細胞の成熟メカニズムの解明とアポトーシスやオルガネラの形態変化の寄与を検討していく。また、EAE発症のメカニズム自体を解明していくことにより自己免疫疾患における根本的な治療に応用できるような知見を得ることを目指す。
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PNAS
巻: 109(51) ページ: 21016-21021
10.1073/pnas.1219482110