近年、沿岸環境において低臭素化ダイオキシン(137-/138-TriBDDs)が自然合成される可能性を有するとして注目されているが、その仮説を検証した研究例は皆無であった。そこで本研究では、日本沿岸域から採取した二枚貝を対象に、137-/138-TriBDDsおよび自然起源の化合物(OH-PBDEs、MeO-PBDEs、Q1)、人為起源の化合物(PBDD/Fs、PBDEs、塩素化ダイオキシン類)の包括的な化学分析を実施し、両者の関係を解析することで、沿岸域でOH-PBDEsを前駆物質として137-/138-TriBDDsが自然合成される可能性を検討した。また、DR-CALUXアッセイを用いて二枚貝中の総ダイオキシン様活性を測定し、総活性に対する137-/138-TriBDDsの寄与率を評価した。結果として、二枚貝から検出された137/138-TriBDDs濃度は、自然起源の2' OH-BDE68、60H-BDE47の濃度との間に非常に強い正の相関関係を示した一方で、人為汚染物質および他の自然起源の化合物濃度との間に関係を示さず、137/138-TriBDDsが、2' OH-BDE68、60H-BDE47を前駆物質として沿岸域で生合成される可能性が強く示唆された。また、DR-CALUXを用いて日本沿岸域の二枚貝における137/138-TriBDDsの総ダイオキシン様活性に対する毒性寄与率を評価した結果、その寄与率は最大76%にまで達しており、二枚貝など海産物摂取に伴うダイオキシンの毒性影響評価に際して、自然起源と考えられる137-/138-TriBDDsのリスクも考慮する必要性が示唆された。以上の成果は、137-/138-TriBDDsの起源と生合成メカニズムの解明に資する学術的成果に加え、魚介類摂取に伴うダイオキシン様毒性を評価する際の重要な基礎情報となった。
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