研究課題/領域番号 |
11J05557
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐藤 悠介 北海道大学, 大学院・生命科学院, 特別研究員(DC1)
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キーワード | がん組織内分布 / 粒子径 / マイクロ流路 / リポソーム |
研究概要 |
本研究の目的は、RNA干渉を誘起する内因性の機能性核酸マイクロRNA(miRNA)を末梢の固形がん組織に送達し、核酸を効率的に機能させることが可能なリボソーム型デリバリーシステムを構築することである。miRNAは23塩基対程度の短鎖二本鎖RNAであり、その構造や物性は、人工のRNA干渉を誘起する核酸であるsiRNAと同等であると考えられる。そこで、比較的安価なsiRNAをmiRNAの代用とし、検討を行った。前年度に、優れた活性を有する新規pH応答性脂質YSK05を開発し、マウス肝臓において高い活性を有するキャリアを構築している。今回、このキャリアを固形がん組織への応用を試みた。担がんマウスにキャリアを静脈内投与したところ、1mg/kg以下の低い投与量で50%の抑制に成功した。この投与量は、siRNAとmiRNAの違いはあるが、研究目標に掲げた活性に達しており、効率の良いキャリアの構築に成功したと言える。一方で、投与量を上げても遺伝子発現抑制率が60%程度で頭打ちになる現象が観察された。この原因として、キャリアのがん組織浸透性が悪く、キャリアが全ての標的がん細胞へ到達していないことが考えられた。蛍光顕微鏡およびフローサイトメーターを用いた評価により、本キャリアは確かにがん組織深部まで効率的に浸透せず、血管周辺に多く分布していることが示された。浸透性の悪さの主な原因として、キャリアの粒子径が大きいことが考えられた。アルコール希釈法によって小さなキャリアを調製するには、脂質溶液とsiRNA溶液をミリ秒レベルの速さで混合することが重要である。そこで、マイクロ集路に着目した。特殊な溝を施した狭い流路内に溶液を高速で流すことで速い混合が達成しうる。検討の結果、粒子径を50nmから25nm程度まで小さくすることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回、肝臓において活性を上昇させることに成功したキャリアをがん組織へ応用したところ、1mg/kg以下で50%以上の遺伝子発現抑制という目標を既に達成した。一方、標的のがん細胞全てにキャリアを移行させるという課題が新たに生じた。しかしながら、キャリアの粒子径が制約となっていることを明らかとし、さらに、マイクロ流路を用いることで実際に非常に小さな粒子径のキャリアの調製にも成功した。以上より、構築した小型のキャリアを用いることでがん組織全体に核酸を送達可能となることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今回構築した小型キャリアを用いてがん組織における標的遺伝子発現抑制効果を評価する。しかしながら、用いるがんモデルによって、その効果は十分なものでない可能性がある。その対応策として、現在開発している新規pH応答性脂質を用いる。現在数種類の脂質を合成中であり、肝臓においてではあるが、既に以前開発したYSKO5を超える活性を有する新規脂質の開発に成功している。これらの新規脂質を用いることで、がん組織においても、キャリアの更なる活性の向上が期待される。
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