研究課題/領域番号 |
11J05599
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
新部 彩乃 (樺嶋 彩乃) 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 間葉系幹細胞 / 上皮間葉転換(EMT) / 癌微小環境 / 癌幹細胞 |
研究概要 |
癌組織では間質量やその増殖性の高さがその悪性度や患者の予後と強く相関があることが示唆されている。癌幹細胞を標的とした治療戦略の重要性は、これまで多くの癌幹細胞研究により強く示されているが、それら多くの研究の標的は癌幹細胞自体であり、間質細胞との微小環境における相互作用に焦点を当てたものは少ない。本研究は腫瘍間質細胞と癌幹細胞との相互作用による癌進展制御機構を明らかにすることを目的としている。本年度は癌細胞と間質細胞の共培養系の確立を行い、更に癌細胞側にGFPを発現させ、共培養後の再分離を可能にした。本研究では癌間質細胞になり得る細胞としてTGF-betaにより処理をした骨髄由来の間葉系幹細胞(MSCs)を用いたが、その意義について臨床検体由来の癌部間質細胞を用い比較検討を行った。癌間質細胞に特異的とされるいくつかのタンパクの発現動態や腫瘍形成能の比較の結果からTGF-beta処理後のMSCsと癌部間質細胞の特徴が一致することから、今後の検討においてMSCsを用いることが有用であるということを示した。これまでの報告において、癌間質細胞が積極的に癌細胞側に上皮間葉転換(EMT)を誘導し得るということが指摘されている。したがって、次に癌幹細胞はMSCsが誘導するEMTを引き起こしやすいという仮説を立てて検討を行った。Trans wellを用いた共培養系において癌細胞側でEMTが誘導されていることが確認された。驚くべきことに、それらのEMT誘導は癌幹細胞がenrichされた集団であるSP細胞において優位に起こっており、SP細胞以外の集団であるMP細胞(non-SP細胞)においてはほとんど変化を示さなかった。EMTを起こした癌細胞は、浸潤・転移を引き起こし腫瘍進展に関わるのみならず老化や薬剤抵抗性など癌幹細胞としての特徴と共通する性格を持つことから、次にMSCsによる癌細胞側のstemnessに関わる検討を進めた。MSCsと共培養することによりSP細胞においてsphere形成能や免疫不全マウスにおける腫瘍形成能の増強、抗癌剤に対する抵抗性が認められ、MSCsが癌幹細胞としての性格を維持または増強している可能性が示唆される結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画としては、本年度における研究内容は共培養条件の決定やその後の検討をスムーズにするための基礎的準備を主としたものであったが、現段階までの成果として、間質細胞側の解析や間質細胞による癌細胞側の受ける変化についての検討など、先んじた検討を進めるまでに進行しているため。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究の中で癌細胞と間質細胞間に存在する具体的なシグナルの存在の可能性を示唆する研究結果が得られている。しかしながら、実際にまだそのシグナルが癌幹細胞とその微小環境を治療標的としたものとして妥当であるかなどの検討はまだ十分ではない。実際に臨床上における間質細胞の存在とEMTにまつわる浸潤・転移を中心とした癌進展との相関性を臨床の病理組織標本を用いて示していくとともに、動物モデルも用いてより詳細に検討していく予定である。
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